プレスリリース

 
2016年3月22日

2017年春夏コットン素材傾向

          
PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより
 2017年春夏向けテキスタイルを発表する見本市、プルミエールヴィジョン(PV)パリとミラノ・ウニカ(MU)が、この2月初旬から中旬、相次いで開催された。景気後退という国際情勢に直面した見本市ではあったが、PVとMUとも、通常通りの活気に満ちた商談風景がみられた。
 PVパリの出展社数は、6つの見本市全体で52か国から1,725社。中核を成すPVファブリックには777社が出展した。前年と比べ4%減だが、新規出展は145社で前年の128社と比べ増加した。日本からは全部で57社が出展し、7番目に多い国となっている。来場者は55,025人で、テロへの警戒や経済不安などの影響で前年同期比6%減となった。その73%はフランス以外の国々でとくにEU圏が伸びている。日本の来場者は1,258人で減少したとはいうものの依然としてアジア圏のトップを守る。
 MUは出展社数が増え、日本と韓国のパビリオン出展を加えると424社で、前年の2月展に比べ6%増。来場者も企業社数で13%増となり、ともに上向いた。

<全般傾向>
♦変革期の見本市
 ファッションシステムが急激に変化する中、EUのファッション業界はあらゆる面において変革期を迎えている。
MUは今期、エルコレ・ポット・ポアーラ氏が新会長に就任し、「ユニークであるために力を結集」と呼びかけ、次期9月展から会場をローの新見本市センターに移転することを表明した。ここは昨年ミラノ万博会場となった施設で、規模を6万㎡に拡大する。新たにOEM企業を集積する見本市「オリジン・パッション&ビリーフス」や、皮革見本市の「リネアペレ」と共催し、「エクセレンス」をコンセプトにハイエンドなラグジュアリーを目指す。MUもPVパリのように、世界のファッション産業の需要に応える製品やサービスを提案する国際イベントに生まれ変わろうとしていることがうかがえる。
 PVパリも、この7月にプレビュー展をパリ市内で実施すると発表した。最近プレコレクションの重要性が高まっている。この新見本市はこの流れを受けての開催で、MUも昨夏「プリマMU」をスタートさせている。今後テキスタイル見本市の日程が早まるのか、気になるところである。

♦新しいバランス感覚を探して!
 今秋冬のデザイナーコレクションを見ると、パッチワークやコラージュが浮上している。ファッションは様々な要素、柄や素材のミックスが有力トレンドになっている。2017春夏はこのトレンドのさらなる可能性を追求するシーズンになりそうである。
 PVファブリックでは「新しいバランス感覚を探して!」を訴求する。宙に浮くシーソーのヴィジュアルが、不安定なバランスを楽しむ季節が来ていることを暗示させている。既定のコードや画一化から離れて、これまでの見方や角度を変えてみることで流れは変わる。そこにはこれまでにないクリエーションを追求しようという、PVパリの意図が感じられる。
 2017春夏は個性的なカラーや素材使いで、どこか気になる、心にひっかかる組み合わせを演出するシーズン。視覚的にも触覚的にも、感覚に訴える力が、これまで以上に求められている。

♦それほど単純ではないシンプルへ
 コットンは2017春夏も基調であり続ける。綿100%への関心は依然として高く、MUの提案色を染めた素材は綿100%のコットンサテンとキャンバスだった。
 しかしトレンドは「ノームコア終焉」というように、ごく普通なものはアウトである。コットンもプレーンなものからはずれ、「それほど単純ではないシンプル」へ移行している。たとえば麻のような風合いであったり、スラブ、ネップなどの意匠糸や織り編み効果で少しイレギュラーに見せたり、ウォッシュなどの巧みな加工でまた別な味わいを引き出してみたり。
 また見た目と違う触感で驚かされることも多い。ソフトかと思うと思いがけなく硬くハリがあったり、ラスティックのようで触ると滑らかだったり、重そうに見えてふんわりと軽かったり。クオリティそのものにも変化が求められている。
 MUトレンドディレクターのステファノ・ファッダ氏も、コットンは春夏の主役であるが、「ワークが必要」と語る。オーソドックスなストライプに細かいドビー柄を配したシャツ地が人気だったように、「ベーシックそのままでは飽きられる」という。

♦自然と人工の調和
 MUのトレンドエリアは、4つのストーリー、「アビス(深い海底)」、「ネイチャー&アーティフィス(自然と都市の人工物)」、「アフリカ・パンク(エスニック+パンクロック)」、「サイコ・ビット(サイケデリック・デジタル)」で構成され、これに沿ってコットン素材も多数展示された。中でもコットンが多く見られたのは「ネイチャー&アーティフィス」で、ディレクションを担当したファッダ氏は、このストーリーがもっとも重要という。
 以前からテーマとして欠かせない自然と人工の対比。ただし今シーズンは、異なるもの同士を単に混ぜ合わせるというのではなく、互いの個性を共存させ、バランスのとれた調和へ導く方向へ動いている。マットなコットンにコーティングやラミネート加工、裏コットンのボンディングなどがそれを表している。
 またコットンのストレッチや撥水、温度調節など、隠れた機能への関心も高まっている。PVファブリックのフォーラムの一つ「テク・フォーカス」では、そのアウトドア素材グループにコットンタイプが提案された。ポプリンやキャンバス、ギャバジンなど何の変哲もない無地で、合繊なのにコットン風、またコットンなのに合繊風に仕上げられている。そこには単純ではないシンプルに見せるテクノロジーが詰まっていた。
 自然と人工、今後ますます大きなテーマになってきそうである。

♦豊かな装飾のシーズン
 2017春夏は、前年から一転、豊かな装飾を主張するシーズンになってくる。これには景気後退で、同質化しがちなファッション活性化の意味も込められている。その方向に二つある。
 一つはアートな装飾性。ジャカードやプリント、ファンシーな加工を駆使し、オリジナリティを演出する。このために異素材や異柄、異色など、様々な異なった要素を併せ持つテキスタイルが豊富に登場している。また人の手が入っていると感じられる素材も多く、繊細なグラデーションやタイダイ、絣調、不規則な縁どり、筆描き風などが増えている。
 色使いも溌剌としたコントラストがいっぱい。PVのキーカラーは明るい光に満ちた赤やピンク、オレンジ。赤系のビタミンを効かせたカラーは、ファッションに個性的で刺激的な風を送ってくれそうである。メインヴィジュアルは、濃いピンクの花にグリーンの葉をあしらったもので、トレンドフォーラムは花や果物の香りが今にも漂ってきそうな雰囲気だった。
 もう一つは意外な転用で視覚を楽しませる動き。透ける素材に撥水加工を施したコート地や、アウター向けジャカードやプリントの柄物が見られたり、またデニムなどスポーツカジュアル素材も従来のイメージから抜け出し、ソワレやフォーマル用途に使えるものが出ていたり。とくにメンズでは、ジェンダーの枠を超えたものが増えている。ストレッチはメンズでも不可欠になってきたし、従来は考えられなかった大胆な花やレースの提案も多くなっている。
 2017春夏はそうした楽しいファンタジーあふれるシーズンになりそうである。


<コットン素材のポイント>
♦カジュアル・ラグジュアリー 
 スポーツを楽しむ人が増える中、スポーツウェアを普段着に採り入れる「アスレジャー」への流れを受けて、注目されるのがスポーツとラグジュアリーの併存だ。コットンもますます洗練された高級感、MUのいう「エクセレンス」を追求する方向へ動いている。完璧に仕上げられた綿100%強撚や、ハリと弾力性のあるコンパクトな超軽量コットン、パワーアップしたピケやハニカム、3Dテクスチャー。ウルトラソフトなジャージーやスウェットも。
 
♦フェミニン/マスキュリン 
 デザイナーのコレクションではジェンダーレスがテーマ。素材もレディスとメンズのコードにとらわれないクオリティが続々登場している。ダークカラーでネクタイ柄のような小柄幾何学ジャカードのエレガントなコットンスーツ地や、ストライプやギンガムチェックなどのシャツ地が、レディスのドレスデザインに用いられる。またストレッチの快適性を求めて、ニットか布帛か、区別のつかないメンズスーツ地が増えている。レースもモダン化し、ユニセックスにスポットが当てられている。

♦クリスプ&ドライ 
 バイヤーのセレクトで、とくにメンズ分野を制したのが、麻タイプの洗練されたラスティック調。コットンも麻の風合いや麻混が人気を集めた。スーパードライでパリッとしたクリスプなタッチ、しかもしなやかな感触を併せ持つ質感だ。スラブヤーンやネップ、ブークレ糸使いなどで、粗削りなクレープ調から、バスケット織りやモダンな表面感のツイード、手織りのようなスーツ地。それらにコーティングやラミネート加工を施したものも。

♦立体的な動きのある表面感
 表面に立体的な動きを感じる素材への関心も高い。ジャカードで軽やかな波状のうねりを感じさせるもの、サッカーやリップル、塩縮など。また不完全な美の感覚で、微妙なニュアンスのひっかき傷や輪郭をかすれさせる破れ、ほつれた感覚のものも。とくに今シーズン復活しているのがカットジャカード。透明/不透明のコントラストとともに、表切りの糸効果を演出したものが目立つ。過激過ぎない程度に、手でカットしたような乱れたフリンジも特徴。

♦モダンな透明感
 シースルーは今シーズンも興味の対象。エアリーな半透明のボイルやオーガンジー、カットヤーン、オパール加工などがバイヤーを惹きつけている。とはいえ前シーズンと異なるのがモダン化していることで、ロマンティシズムではない透明感が主調。スポーツ感覚やプラスティック風、合繊調のオープンワークやネット、メッシュ、穴のある構造、パンチング、またレーザーカットもイン。レースやチュールは花よりも幾何学柄へ、インナーではないアウターを意識した展開が目を引く。

♦和らいだ光沢
 光沢感は依然として重要。とはいえ派手な光り方ではない和らいだマットな光が好まれている。パウダーがかった感じを与えるラミネート加工や陶磁器のようなコーティング、箔プリント、しっとりと上品なコットンサテンの光沢感など。コパー(銅)やシルバーのタッチ、古色を帯びたものも好評。また青白いメタリックな光沢や冷たい虹色、パールの光沢、艶のあるラッカー加工も見られる。さらにきらめく波のようなスパンコールの明るい光沢も。ラメを点々と配したコットンや小さなきらめきを灯すポイント使いのラメにも注目。 

♦インディゴブルーのテクスチャー
 デニムやダンガリー、シャンブレーを中心に、インディゴブルー旋風が続いている。中でも目新しいのは、細番手薄地のロープ染色で、カジュアルというよりドレス向けの洗練されたシャツ向けテクスチャー。また逆にラスティック調のデニムも目に付く。極太糸と細糸を交互に絡ませたツイード風ルックや、スラブやネップ糸使いなどで粗野な表情を演出したデニム、スクラッチしたような表面感の剥げたデニムなど。

♦爽やかなボーダーストライプ
 ストライプが幅広い人気を集めている。とくに好評なのが白を組み合わせた爽やかな色使いのボーダーストライプ。今シーズンは不規則に変化するものが多く、ぐらついていたり手描き風だったり、グラフィカルなものが目立つ。またベースがジャカードや刺繍、透け感、シワ加工などで、先染めや花などのプリントを組み合わせたものも。マリーンやレガッタなど海に関係するストライプも、太さや間隔などを微妙に変化させながら定着。この季節に欠かせない永遠のテーマとなっている。

♦エキゾティック・シック
 エキゾティシズムへの憧れは今シーズン、より都会的なフィーリングにアップデートされて引き継がれる。とくに注目はダークでセンシュアルなアフリカン・シック。アフリカの部族の伝統にインスパイアされた構築的な織りや柄がセレクトされた。ナチュラルなラスティシティだが、タッチはしなやか。太いファンシーヤーンやラフィア風、縄をなったような糸使い、またきらめくスパンコール使いのものもみられる。

♦力強いプリント
 装飾への流れが広がる中で、プリントが力強い動きを見せている。デジタルプリントの進化も目覚ましい。
 そのハイライトは、トロピカルな植物柄。うっそうと生い茂るジャングルのイメージなどで見られる。花柄は過度なくらいにロマンティックだったり、みずみずしく咲き誇っていたり、逆に色あせたデザインのものも。
 グラフィックな意匠も多くなっている。幾何学柄もモダンアートのように構造の危ういものだったり、手描き風だったり。またキュービズム風や錯綜する折り重なったデザイン。重なり合い二通りの解釈ができる柄が目立つのも特徴だ。
さらにエスニック調、とくにアフリカ風の抽象柄が目につく。

♦カラー
 生き生きとしたビビッドやパステルでフレッシュな印象。ピンクやオレンジ、ブルー、ターコイズ、ラベンダー、アップル・グリーンなど。花や果実の色にインスパイアされた美味しそうなカラー。ロマンティックというよりは小粋な人目を引くカラーである。シーズンの楽観的な気分を盛り上げる、そんなカラーの台頭が注目される。
 (取材/文:一般財団法人日本綿業振興会 ファッション・ディレクター 柳原 美紗子)


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