コットンと環境

◆「コットンと環境」◆

COTTON AND THE ENVIRONMENT


~ よく聞かれる質問に答える ~



<提供>
Cotton Incorporated
6399 Weston Parkway
Cary, NC 27513
http://www.cottoninc.com
http://cottontoday.cottoninc.com/
2010年7月8日

コットンは私たちの生活のいたるところにある。コットンは、米国では、衣類や家庭用品の繊維として予想をはるかに超える人気があり、全繊維の60%以上を占めている。それにもかかわらず、コットンはどのように栽培されているのか、環境に優しい方法で行われているのかという質問や関心が寄せられる。このような混乱の多くは、有機栽培のコットンが市場に現れた時、通常の綿花栽培の方法について時々不適切な主張を行ったところから生じた。その他の質問としては、バイオ技術と世界農業において増大するその大きな役割に集中している。バイオ技術は食料と繊維の生産者に明らかに恩恵を与えている一方、その技術について論議を呼んでいる。

さらに、繊維のサプライ・チェーンにとっては、消費者や企業が日常用品の環境に対する影響の評価に関心を深め、監視の目が厳しくなっている。繊維品製造の多くは、北アメリカから移動してしまったので、そうした関心は、天然資源の利用や化学薬品投入、廃棄物処理などを監視し規制する基準や方法が発達していない国々に向けられている。農業と同様、環境問題から生まれた新しい技術の多くが、繊維サプライ・チェーンに導入されている。しかし、それらはどれほど広く受け入れられているのだろうか? 世界の天然資源に対して繊維産業が与えるインパクトを減らすのにどれほどの進歩があったのだろうか?

コットン インコーポレイテッド社のこの小冊子の目的は、コットンと環境にまつわる議論を概観することにある。よく質問を受ける問題を確認し、回答を見出すことを目的としている。コットン インコーポレイテッド社は、関係機関がもっと深く掘り下げることを促し、そのような探求を手助けできる資料をそろえている。その手始めとして、私たちのウエブサイトhttp://cottontoday.cottoninc.com/を開いてみていただきたい。そこには、農場から使用後の廃棄まで、コットンと環境に関するあらゆる分野の情報のすべてが網羅されている。また、ビデオ、冊子、論文、図表、数表なども、ウエブサイトやコットン インコーポレイテッド社へ直接架電(ウエブサイトの連絡ページ参照)することによって入手することができる。最後に、当社には、農業科学者、繊維化学者、経済学者、技術者、報道担当専門家がいて、全員で環境問題改善の仕事に取り組んでおり、この問題に関する真実の情報探求をめざすあなたを手助けできる態勢をとっている。



< 目  次 >

I. 土地の利用

II.  水の利用

III.  農薬

IV.  オーガニックとは?

V.   繊維品製造と環境

VI.  その他のよくある質問

VII. 付録(出典)




I. 土地の利用

綿花栽培:コットンは、栽培に必要な土地の広さ、農薬や肥料による土地汚染、栽培地周辺の生物多様性の減少といった理由により、土地・環境に有害であるという間違った評価を受けている。その中でもとりわけ関心を持たれているのは、世界の爆発的な人口増大によって食料や繊維のすべてを生産する土地が地球上には十分に存在しないという認識が高まっていることである。世界中で栽培可能な土地のほとんどすべてはすでに利用されつくしていると言われる。では、農業のニーズにこたえる土地がない状態で、世界中で次の25年先に食料や繊維の生産量を2倍、3倍に増加することができるのだろうか?

Q&A

1)コットンの栽培は、他の作物と比べて、どれほど多くの土地を使っているのか?

コットンは、80カ国以上で栽培されており、世界の農地の2.5%を使っているが、これに対してコーンやコメの栽培には4倍以上の土地が使われている。



世界の土地使用率(各農産物)
出所:国連食糧農業機関、2005年



コットンの農地が他の作物に比べて比較的少ないにもかかわらず、コットンは多額の収入を得ている。綿繊維と綿種子をあわせると、世界の農業生産価額の5.1%を占めている。2010年米国市場価格で、綿花は1ポンド当たり65セントから85セント、綿種子は1ポンド8セントであった。



世界の農業資源のコットンの割合
出所:付録1
(1) 農薬は、殺虫剤、除草剤、殺菌剤、その他(収穫を補助するもの)を含む
(2) 被雇用者数



2)10~20年前と比べて今日の綿花栽培の農地は減少しているのか?

はい、科学的な先進技術を採用している国々では農地を大幅に減らしている。例えば、米国では、1976年には綿花1トンを生産するのに1.9ヘクタール(4.7エーカー)以上を使ったが、2008年には同じ数量を生産するのに1.12ヘクタール(2.77エーカー)以下となった。米国以外では同じ数量の綿花を生産するのにもう少し多くの農地を必要とするが、その数字は着実に減少している。



綿花1トンの生産に必要な土地
出所:付録2)、5年平均で算出



バイオ技術(遺伝子組換えあるいはGMの綿種子)の利用など近代的な農業技術を採用している国々では、イールドは劇的に増加している。例えば、インドでは、2002年にGM綿の一般使用を認めて以来、8年間に綿花生産は2倍になった。<出所:付録3)>

綿花栽培農地の世界合計で見ると、栽培面積は30年以上にわたってあまり変化していない。エーカー当たりの生産性は引き続き向上しているが、コットンに対する世界の需要もまた増大している。

3)農業は、エーカー当たり、綿の木1本当たりの生産量をどのように増加できるのか?

近代農業の科学は多方面にわたっており非常に有益である。今日の作物は、より健康的であり、生産費がより低く、投入量はより少なく、空気・土壌・水・農民に対する悪い影響を少なくしている。農作業の変革は各部門で重要な役割を果たしている。例えば、水や肥料などの投入を最も効果的に生かす方法や時期について何年にもわたる集中的な研究によって、新しい灌漑システムや栽培・経営戦略の向上、農薬や肥料の効率的な使用、革新的な配送方法を生むことができ、それによって燃料、労力、投入経費、よりよい作物を育てる全般的な作業を削減し、より多くの収穫を達成することとなる。

バイオ技術の種子(いわゆる遺伝子組換え種子)は従来とはまったく異なるものを作り出している。現在の作物は、あらゆる昆虫を寄せ付けない特性や特定の除草剤に耐性をもたせることができる。現在では、コットンの栽培は、より少ない農薬の使用、土壌の崩壊を最小限にとどめる保全耕運によって行われており、土壌の表面に綿の木を刈り取って放置しておくことで土壌を保護するだけでなく、土壌浸食や土壌水分の蒸発を大幅に減らしている。

近代的農業のもう一つの例は、精密農業である。衛星地図作製システムを利用して、トラクターの走路を正確に定め、種子、肥料、農薬などの投入物を必要な箇所に正確に散布する農業機械を実用化したことによって、不必要な箇所に散布しないようにして、時間やエネルギー、経費を節約している。

4)コットン農家は、なぜ綿の木の不要物(茎、枝、葉など)を栽培した土地に放棄しておくのか?

最近の綿作農家は、綿の木を土の中に鋤き込む代わりに、栽培したところに放置するようにしている。これによって、土壌侵食を保護する役目を果たし、土壌水分を保持することができる。廃棄物は腐敗し、土壌を肥沃にするからである。このように、近頃では、ほとんどの農家は土を耕すためにトラクターで鋤をひくことはない。

5)化学肥料は、なぜ有機肥料より土壌や環境にいいのか?

ほとんどの有機肥料は動物の糞尿で、通常窒素(N)は少なく、リン(P)とカリウム(K)を非常に多く含んでいる。窒素は最も必要とされる養分だから、窒素の必要量を満たすために大量の糞尿が必要となり、それによってリンとカリウムが過剰となってしまう。その上、動物の糞尿は、作物が必要とする基本栄養素(NPK)まで分解するのが遅いので、糞尿が早く分解しないと、作物が必要とするときに、十分な養分が行き渡らないこととなってしまう。大量の糞尿が、あまりにも長期間にわたって滞留し、雨水(流水)によって河川に流れ込み、藻の発生問題を起こすこととなる。

それに代わり、今日の化学肥料は、分解に余分の時間がかからず、作物が必要とする栄養分をバランスよくすばやく供給し、作物がちょうど必要とするときに与えられる。肥料は、最大の効果と流失防止のためには、作物が必要としている期間に作物に最も望ましい状態で与えられなければならない。

6)精密農業とはどんなものか?

精密農業とは、作物が必要としているものを、必要な時に、必要としている場所で与えることである。以前は、農家は農地の平均的な条件にもとづいて決定をしてきたが、現在の技術では、1平方メーターの狭い農地ごとに、作物の必要条件を解析し特定することが出来る(しかし、現実では10平方メーターが最小の農地単位として運用されている)。例えば、過去には、土壌のサンプルが農地の各所から取られ、混ぜ合わせて、肥料必要量の平均値を出していた。今では、農地は正確に分布地図が描かれていて、農地のあらゆる土壌タイプのために1サンプルを取るだけで済ますことができる。





II. 水の利用

コットンの栽培:コットンはよく水を消費すると批判される。事実は、コットンは他の多くの作物よりも水の有効利用の面で優れている。ひとつ上げれば、コットンは乾燥に非常に強く、暑く乾燥した気候を好むので、他の作物栽培に適していない世界中の乾燥地域でよく栽培されている。その上、コットン栽培に使われる水の大部分は、灌漑の水ではなく、雨水である。だから、すべての農業で使う水と同様、水は「借りている」に過ぎない。つまり、水は土や作物から蒸発し大気へ帰り、再び雨となって戻ってくるという循環をしている。

最終のポイント:農業科学は、水の保存と運用を最も重要な問題と考え、世界中で水資源の有効利用と保護に力を注いできた。その結果開発されたものとして、灌漑、耕運、土壌管理、精密農業などがある。また、農業研究やバイオ技術では、現在進められている乾燥耐性の作物をもっと多く作り出すことに直接力を注いでいる。

Q&A

1)他の作物と比べて、コットン栽培にはどれほど水を使っているのか?

世界の食料、飼料、繊維を生産するのに、毎年人間が消費する真水の70%を使っている。世界の水フットプリントに占めるコットンの割合は、3.0%で、他の多くの作物(例えば、コーン、大豆、小麦など)より低く、コットン栽培の世界農地使用の2.5%と比例している。



世界の農業資源のコットンの割合
出所:付録1)
(1) 農薬は、殺虫剤、除草剤、殺菌剤、その他(収穫を補助するもの)を含む
(2) 被雇用者数



2)米国では、コットンはどれほどの灌漑を必要としており、雨水で栽培されているのはどれほどか?

アメリカ綿栽培地の64%は灌漑を必要としておらず、25%は補助的に灌漑の水を受けており、11%はカリフォルニアやアリゾナのような高温乾燥地で全面的に灌漑に頼っている。灌漑用水の利用を考える時重要なことは、収穫量の膨大な増収が可能であることを念頭においておくことである。いくつかの実例として、イールドが400%も増加したところがある。したがって、補助的に適切な方法で灌漑用水を利用することは、数多くの重要な資源(土地、雨水、灌漑水、労働、エネルギー、資金)のかしこい活用法となる。<出所:付録5)>

3)過去10~20年間、農業用水でどのような改善が行われたか?

20年前と比較すると現在の綿花栽培では、単位面積当たりの収穫量は大幅に増大しているが、栽培に必要な水の量は基本的に同じか、地域によっては実質的に減少している。それは収穫量の多い新しい品種や効率的な水使用によるものである。害虫の被害を受けた綿の木は、害虫を寄せ付けない健康な綿の木と同じ水量を使うが、健康な木は害虫被害を受けた木よりコットンをたくさん生産するので、結果として水の使用を最大に生かすこととなる。

4)バイオ技術は乾燥に強い綿の木をつくることができるか?

いずれは、イエス、となる。現在、乾燥に強いコーンが2―3年以内に商業ベースで市場に出るよう開発を進めている。コットンやその他の作物もすぐその後を追っている。世界中の生産者、政府、資源管理関係者は利用できる水を出来るだけ効果的に使用したいという意向を共有している。

5)コットンは汚れた水や海水で栽培できるか?

コットンは、塩分に耐性があり、汚れた黒い水でも生産性を維持することができる。コットンが苗に育ってしまうと、海水を20%含む水で栽培することができる。コットンはこのような塩素耐性の強さをもっているので、農家は他の作物には使えないような塩分を含む土地や灌漑用水を使うことができる。





III. 農薬


農薬の必要性:農薬は、害虫、病害、雑草から作物を守るもので、これを使わないと、作物の生産に被害を与え、収穫量を減少させてしまう。世界の増加する人口に安全で、十分に、手頃に食料を供給する農業の力は農薬の使用なくしては不可能である。コットンに関しては、農薬やBtコットンのような作物自体が農薬をもっているものを使わなければ、世界のコットン生産の80%以上は害虫や菌類、雑草によって失われてしまう。<出所:付録6)>

農薬の一部は、社会的利益をも提供している。例えば、除草剤の適正な使用によって、鍬をもって草取りする手間を省くことができる。特に開発途上国では、この重労働は通常女性や子どもの仕事になっているので、重要な意味を持っている。鍬を使っていた時間は、教育やその他の大きな社会的便益や労働集約型でない生産活動に集中することができる。作物自身がBt農薬をつくるバイオ技術のコットン品種によって、農民の合成農薬との接触を大幅に減らすこととなる。

Q&A

1) 世界の農薬使用のうち、コットンはどれほど占めているのか?

誤った批判の中には、コットンは農薬の最大の使用者であるという引用をしている。コットンは現在世界の農薬使用の25%を占めていると主張しているが、事実は7%以下である。



世界の農薬使用量(各農作物)

農作物 世界で使用された農薬の割合
果物、野菜 29.7%
穀物 17.0%
その他の農作物 15.0%
大豆 9.6%
コーン 9.3%
ライス 8.4%
コットン 6.8%
キャノーラ 1.7%
砂糖大根 1.6%
出所:Cropnosis, 2008年
販売データより


2)1年のコットン栽培に使われる農薬は、1エーカー当たり、あるいはコットン1ポンド当たりどれほどか?

米国農務省によると、2007年には、米国の綿畑1エーカーに、殺虫剤0.8ポンド、除草剤2.6ポンド、収穫用農薬(成長抑制剤、落葉剤)1.8ポンド、殺菌剤0.007ポンドにすぎなかった。米国では、2007年の単位当たり生産量は1エーカー871ポンドであったから、コットン生産量1ポンド当たりに使われた全農薬は、約0.1オンス(1オンスの10分の1以下!)である。これは、人工甘味料3袋の粉の分量とほぼ同じ量である。



コットンの栽培に使用される農薬

1エーカー当たりの使用量
(ポンド)
綿花1ポンド当たりの使用量
(オンス)
殺虫剤 0.800 0.0147
除草剤 2.600 0.0478
殺菌財 0.007 0.0001
その他(1) 1.800 0.0331
合 計 5.200 0.0955
出所:付録7)
(1) 収穫を補助するもの



重要なことは、バイオ技術のコットンの出現やIPM計画の広域な実践によって、米国では、農薬使用量は、過去25年間に50%以上も減少していることである。

3)コットンは最も農薬多用作物であるという主張は正しいのか?

25年前には、この発言は正当であったかもしれないが、2007年においては、世界中でコットン栽培のために販売された農薬は、全販売額の6.8%にすぎなかった。米国農務省によると、2007年には、わずか殺虫剤の0.8ポンド、除草剤の2.6ポンド、収穫用農薬の1.8ポンド、殺菌剤の0.007ポンドが米国の綿作1エーカーに投入されたに過ぎない。米国の2007年の平均収穫量は、エーカー当たり871ポンドであったから、収穫されたコットン1ポンド当たりに投入された農薬総量は約0.1オンスということになる。重要なことは、バイオ技術や害虫耐性の作物の出現によって、米国では、農薬投入量は、過去25年間に50%以上減少していることである。



アメリカ綿の農薬散布回数



出所:全米綿花協議会Beltwide Conference Proceedings 1987-2009
    同Cotton Insect Losses Report



4)コットンはなぜ食用作物として規制されているのか?

コットンはもともと繊維として使用されているが、経済的に重要な数多くの副産物(綿種子、コットン・リンター、綿実油、綿実粉)がある。これらの製品は、人間や家畜の食料として使われるので、コットンは規制機関に食用作物と見なされ、EPAやFDAによって、大豆・コーン・小麦などの食用作物と同様に規制されている。EPAとFDAは、コットンに使われる薬品すべてに適用する厳格な規則や規制を設けている。

5)農場でコットンに使われた化学薬品は、衣類になる時コットンに残留するのか?

繊維中の農薬残留はコットンの問題点とはなっていない。なによりもまず第一に、農薬は収穫前の一定期間は散布を禁止されており、繊維は国際機関によって農薬残留量が計測される。第二に、原料から最終の衣料になるまで、コットン繊維は洗浄と精練の工程が繰り返され、繊維に触れるかもしれない農場の化学薬品を取り除いてしまう。したがって、仕上がったコットン衣料が人の肌に触れることによる残留農薬の危険性はない。





IV. オーガニックとは?

一般の人は、「オーガニック・コットン」という言葉に惑わされやすい。だれもがコットンは植物からとれることを知っている。すべての植物は、生きた有機体であり、自然のものと思っている。したがって、「オーガニック・コットン(有機綿)」は、まぎらわしい言葉と言えるかもしれない。

「オーガニック・コットン」と通常のコットンとは厳格にはどこが違うのか? 世界中で、「オーガニック・コットン」は、化学薬品(肥料、殺虫剤、成長抑制剤、落葉剤など)や遺伝子組換えの種子を使わないで栽培されるコットンと定義されている。そのようなコットンを栽培する土地は、オーガニック・コットンを栽培する以前少なくとも3年間は化学薬品を使ってはならないこととなっている。USDA(米国農務省)は、数十の認定機関の支援を受けて、そのような規則やオーガニック綿俵の仕分けを正確に守っていることを監視する責任がある。オーガニック農業には、農家の高い専門知識や記録を保持する努力が要求される。オーガニック・コットンのサプライチェーンの中のトレーサビリティと透明性は、明確に把握することは容易ではなく、消費者やオーガニック・コットンを入手しようとする人は、オーガニック・コットンに必要とされる厳格な基準に従って栽培されたことを実証する努力を怠ってはならない。

オーガニック・コットンは、ごく限られた数量(世界の供給量は綿花生産の1%以下)しかなく、通常のコットンに比べ価格が高い。手触りや見かけによって、あるいは研究所での分析によって違いを言うことはできない。摘み取りの後は、オーガニック・コットンと通常のコットンとの違いはなにもない。

すべてが大変複雑なことになっている。よく質問を受ける問題をいくつか挙げる。

Q&A

1)オーガニック・コットンの生産とはどんなことか、通常のコットン生産とどのような違いがあるのか?

「オーガニック」と「通常の(コンベンショナル)」という言葉は、ただコットン生産の違った2つの方法を示しているにすぎない。どちらの方法で生産したコットン繊維も同じである。

オーガニック生産方式は、合成農薬を使わず、害虫や雑草駆除を手労働で行い、肥料に糞尿やマメ科の被覆作物(緑肥)を使い、バイオ技術(遺伝子組換え種子)の使用を禁じている。オーガニック生産は、労働集約型であり、生産者の高度の専門知識を必要とし、通常の農法より収穫量は少なくなる。米国では、オーガニック生産者は、農務省の全米有機計画(NOP)に定められた厳格な経営実務を守り、監査や現地検査を受けなければならない。オーガニック農家は、農務省のオーガニック認証を受ける資格を得るまでに3年間NOPガイドラインにしたがって作物を栽培しなければならない。オーガニック農法による生産性の減少は、病虫害、全般的に低い土壌肥沃度、農地の一部を緑肥栽培に当てないといけないことなどによるものである。

通常のコットン生産は、化学と非化学の両分野から利益を受けており、バイオ技術の利用を認めている。通常のコットン生産方式のイールドは、種子の防カビ処理、化学肥料、害虫耐性の品種などの使用によって、オーガニック農法の生産性より高くなる。除草剤耐性の作物と合わせて除草剤を使用することによって、労働とエネルギー消費を減らし、土壌流出を防止する非常に重要な手段である保全耕運の採用が可能となる。

2)オーガニック・コットンは他のコットンとどう違うのか? より安全なのか? より柔らかいのか? より純粋なのか?

オーガニックは、単に綿花生産の方法に関係するだけで、繊維品質や安全性、純粋性には関係ない。繊維や布地の品質は、綿花品種や栽培中の気候、ジンニングや製品加工工程などに影響を受ける。安全性については、世界中の通常の原綿は、食用作物と同様に、ドイツのホーヘンシュタイン研究所で、Eco-Tex 100の基準にしたがって、殺虫剤、重金属、フォルムアルデヒド、PCP、落葉剤など200以上の有毒物質について検査を行っている。綿繊維には、長年にわたり、どの種類の残留物質も検出されていない。

3)オーガニック農法のコットンは、通常農法のコットンよりサステナブルか?

それぞれの農家の状況によって、答えはイエスとノー。この5千年間、コットンはオーガニックの農法で栽培され、近代的な生産方法は、前世紀になってから使われはじめたばかりである。今日、通常の生産方法の生産性はオーガニック農法より高い(約25%高い)ので、同じ収穫量を得るのに、少ない農地、労力、水、種子で済むこととなる。また、化学肥料は、作物が必要としている時期に必要としている養分を正確に供給するように設計されている。言い換えれば、化学肥料は必要養分に分解する余分の時間は必要ないが、それに引き換え、有機栽培で使われる糞尿はまず養分に分解するよう腐敗させないといけない。農地の表面に長く置かれた肥料は、早く吸収される肥料よりも流出することが多い。また、通常のコットンは、保全耕運によって土地の肥沃度を長期間維持するいろいろの方法をもっているが、オーガニック・コットンの農家は不耕起栽培や保全耕運の採用には限界がある。要するに、オーガニック・コットンと通常のコットンはどちらもサステナブルであると言える。





V. 繊維品製造と環境

消費者の繊維品、つまり衣料や家庭用繊維品を作るのには、世界中の大小さまざまな会社が何百、何千も係わる膨大で複雑な過程を経ている。この20年ほど前までは米国で買う衣料や家庭用繊維品の75%以上は米国で作られていた。今では、最終繊維製品の5%足らずが米国で作られているに過ぎない。繊維製品のほとんどはアジアで作られている。

環境という面から見ると、繊維産業はつねに批判と関心の的であった。大量の水が染色加工やデニムの洗い加工に使われる。昔から腐食性薬品があらゆる種類の布地の精錬、漂白、染色、加工に使われて来た。塩類は、糸や布に染料を固着するのに重要な役割を果たしている。廃水やその処理と廃棄はとくにホットな話題となる。

Q&A

1) 世界の繊維製造工程の環境負荷(フットプリント)を縮減するために、いまどんなことが行われているのか?

沢山行われている。特に、水やエネルギー、化学薬品の削減の関係が多い。他の製造業と同様に、繊維産業は経済的な見返りのある高品質の繊維製品を生産する新しい工程や技能を持っていて、操業を行っている。それには、製造工程の組合せや高能率な経営、工程管理、最先端の設備、廃棄物の削減、リサイクルが含まれている。

2)繊維製造、特に染色仕上げ加工やデニムの水洗は、膨大な水、エネルギー、化学薬品を必要とする。これらの投入量を減らすためになにが行われているのか?

繊維産業では、布地や衣服のウエット加工で発生する環境の難問題を認識して、あらゆる箇所でそのフットプリントを縮小するよう積極的に取り組んでいる。機械メーカーは、10年前にわずかな水やエネルギーを利用する高性能の染色機械をつくっている。化学会社は、低温でも反応し、腐食性が弱く、より簡単に洗い流せる製品を開発している。他の産業の新しい開発も、同じ目標に向け新しい方法を繊維製品に提供する道を追求している(例えば、デニムの漂白のためのオゾン)。

3)繊維製造の廃水はどの程度汚れているのか? 汚染のため、ほかのものには使えないのか?

繊維工場の廃水は汚染を除去する処理ができる。コットン インコーポレイテッド社の研究によると、製造工程の廃水は、近代的なろ過装置を通すことによって繰り返し再利用できることが示された。この関係の資料は入手することができる。最も新しい繊維製造工程では不純物を除去する廃水処理施設が設置されており、処理された水は政府の規制にしたがって安全に川に流すことができる。そこでできた不純物や沈殿物は内容を検査したのち、エネルギーとして焼却するか、適切に埋め立てられる。

4)米国や海外では、繊維製造工場の環境基準はだれが監督をしているのか?

米国では、環境順守状況は環境保護局(EPA)や地域・州の関係部局がモニターしている。他の国では、各国の法律や規制を施行する同じような政府機関がある。さらに、小売業者や第三者の認証機関が工場において順守状況の監査を行い、バイヤーの要求規定に適合するようにし、エコラベルを取得するようにしている。

5) 綿衣服、例えばドレスシャツやスラックスの「炭素排出量」は合成繊維でつくった同じ品目の排出量より多いのか、少ないのか、あるいは同じなのか?

この質問に対する単純明快な答えはない。衣服の1点についての正確な炭素排出量を確定することは、たいへん複雑で、他繊維の製品と比較する場合にはさらに複雑になる。それぞれの製品の炭素排出量、つまり温室効果ガスの排出は、製品の生産・消費の場所に影響されるところが大きく、同じスタイルの綿製と合繊製の衣服を単純に比較するということではない。石炭、天然ガス、水力発電、バイオ燃料などからとられたエネルギーの比率が国によって異なるから、1カ国の投入量を基準としたGHG(温室効果ガス)計算の仮定は、間違いを招くおそれがある。

6)竹からつくられた布地は他の布地より環境によいか? ヘンプはどうか? リヨセルは? ラミーは?

竹(葉より)、コットン(種子より)、ヘンプとラミー(靱皮より)、リヨセル(木材パルプより)はみな再生可能な繊維資源からとる。コットンを除いて、すべての繊維資源は、セルロースを繊維状にして糸に紡げる状態にするために化学薬品を使わねばならない。竹を繊維にするために必要な化学薬品の投入量と水汚染は非常に大きく、リヨセルの場合はそれより少ない。連邦取引委員会では、竹繊維とリヨセルは、繊維組成表示をする場合は、レーヨンの部類と見なしている。





VI. その他のよくある質問

1)米国と世界各国では、コットン農業環境基準はどこがモニターをしているのか?

米国農務省(USDA)は、自然資源保全局(NRCS)に対して、ガイダンスと監督を行っている。NRCSは、綿花生産者が利用できる環境計画の大部分を管理している。NRCSは、生産農家が現行の農業経営を向上発展させるのに使うことのできる数多くのかんたんに入手可能な手段や資料をもっている。土壌流失の対策や農地内の生物多様性の向上など、生産農家が直面しているすべての環境問題に対する解決策がそろっている。またEPAは、作物保護製品の登録と安全な用法に関する厳格な規制を設けている。コットンは食用作物であるので、FDAは、コットン農家に対して、食用作物の農家と同じ予防対策を課している。

2)コットン栽培の過程で大気中の温室効果ガスや二酸化炭素(Co2)の数量を実際に削減しているか? それは大きな削減か?

コットンは、光合成する緑色植物同様、大気中から炭素を取り入れ、葉や繊維に閉じ込め、根に運ぶことによって、土壌を肥沃にする。事実、炭素はいったん繊維に取り入れられ、繊維の中に留まり、その繊維でつくられる衣類の中に留まる。衣類が完全に分解、あるいは焼却されて始めて、炭素は大気中に還る。コットンの木は大気から二酸化炭素を取り除くのに非常にすぐれている。世界中のコットンの木がCO2を除去する数量は、毎年、ハイウエイを走る車700万台が排出する量に相当するという大きなものである。

3)コットン生産に必要なエネルギーの正味のフットプリントはどれほどか? それは二酸化炭素排出量とどのように違うのか?

綿畑から綿俵になるまでに、コットンは綿種子に貯えられたエネルギーによって、コットン繊維生産に必要なエネルギー以上の正味エネルギーをつくる。綿種子に貯えられたエネルギー(食品産業で綿実油としてあるいは飼料として利用されるカロリー)は、コットン繊維を生産するのに使われるエネルギーを上回っている。したがって、コットン生産は正味のエネルギー提供を行っている。

4)ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)とはなにか? コットンと環境について、LCAからなにを学ぶことができるのか?

ライフ・サイクル・アセスメント(LAC)は、ある製品(例えば、コットンTシャツ)が、最初から最後まで(生産から廃棄まで)に環境に与えるインパクトを測るのに使う手段である。投入物(水、エネルギー、化学薬品)や生産、製造加工、消費者の使用、廃棄に関係する排出(温室効果ガス)の分析を行うことによって、自然資源を節約し、製品のフットプリントを削減するように変革することができる。

5)コットン繊維以外に、コットンの木からなにが得られるか?


実綿を繰り綿(ジンニング)することによって、繊維、綿種子、ジン・トラッシュ(廃棄物)の3つがつくられる。コットン繊維1ポンドには綿種子1.6ポンドが付いている。綿種子は、価値の高い副産物で、搾って綿実油をとり、数多くの食品に使われて人々が利用し、あるいは飼料としても使われる。繊維と綿実油のほかに、残されたコットンの葉、茎、幹などはジンの廃棄物となる。ジン・トラッシュもいろいろの用途がある。生産農家は、それを有機土壌改良のために農地に戻す。いろいろの産業用途に使うため売られることもある。例えば、ハイドロマルチは、土壌浸食を抑える環境に優しい製品で、ランドスケープ・ビジネスで使われている。この製品は、ジン・トラッシュを草の種や水と混ぜ合わせてつくられ、覆土の必要な場所にスプレーされる。ジン・トラッシュのもう一つの利用は、コンポジット産業で、標識や建材に使われる。例えば、チリ料理のレストランの看板に描かれた赤いチリ・ペッパーは、ジン・トラッシュと樹脂を混合したものである。ジン・トラッシュのその他の利用法として、圧縮してレンガ状の塊にした燃料、バスタブの裏張り材、住宅・事務所の床材、壁のカバリングなどがある。コットン・ジンの廃棄物は、沢山の用途に使われている。

6)コットンは生分解性があるか? リサイクルはできるのか?

コーネル大学が行った堆肥の研究によって、コットンは完璧に生分解できることが分かった。コットンは、ポリエステルと対比すると、生分解性については明らかにすぐれている。また、コットンはリサイクルもできる。事実、2006年から2009年にかけてコットン インコーポレイテッド社が行った「コットン:ブルーからグリーンへ」キャンペーンでは、20万本近いジーンズが集まり、環境に優しい防音材が185,000平方フィートつくられ、180軒の家の防音に使うことができた。

7)コットンと環境についてもっと知るのにはどこに聞けばいいのか? だれが説明をしてくれるのか?


コットンと環境についてもっと学ぶためには、われわれのウエブサイトを見ていただきたい。http://www.cottoninc.com http://cottontoday.cottoninc.com/





VII. 付録(出典)

1) COTTONS SHARE OF WORLDWIDE AGRICULTURE
Land: FAO, 2005. 2005 harvested acres from the United Nations Food and Agricultural Organization
Water: Hoekstra, A. Y. & Chapagain, A. K. (2007). Water footprints of nations: water use by people as a function of their consumption pattern. Water Resource Management, (21)1, 35–48
Pesticides:Cropnosis, 2008.
Fertilizer: Heffer, Patrick. 2009. Assessment of Fertilizer Use by Crop at the Global Level 2006/07 – 2007/08. International Fertilizer Industry Association (IFA) ifa@fertilizer.org - www.fertilizer.org
Labor: Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). 2006. FAOSTAT Online Statistical Service, based on 2004 data. Rome: FAO. http://faostat.fao.org. and World Resources Institute (WRI) http://www.wri.org
Monetary Value : Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). 2007. http://faostat.fao.org/site/339/default.aspx (based on the 20 most important food and agricultural commodities)
Fiber Demand: National Cotton Council. 2009. Personal communication; calculation based on PCI Redbook, World Synthetic Supply/Demand http://www.pcifibres.com/

2) LAND REQUIRED FOR THE PRODUCTION OF ONE METRIC TON OF COTTON FIBER

Source: Meyer, Leslie , Stephen MacDonald, James Kiawu, COTTON AND WOOL SITUATION AND OUTLOOK YEARBOOK. Washington, D.C.: Economic Research Service, U.S. Department of Agriculture, November 2008.

3) James, Clive. 2009. Global status of commercialized biotech/GM crops: 2009 ISAAA Brief No 41. ISAAA: Ithaca, NY

4) COTTON’S SHARE OF WORLDWIDE AGRICULTURE

Land: FAO, 2005. 2005 harvested acres from the United Nations Food and Agricultural Organization
Water: Hoekstra, A. Y. & Chapagain, A. K. (2007). Water footprints of nations: water use by people as a function of their consumption pattern. Water Resource Management, (21)1, 35–48
Pesticides:Cropnosis, 2008.
Fertilizer: Heffer, Patrick. 2009. Assessment of Fertilizer Use by Crop at the Global Level 2006/07 – 2007/08. International Fertilizer Industry Association (IFA) ifa@fertilizer.org - www.fertilizer.org
Labor: Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). 2006. FAOSTAT Online Statistical Service, based on 2004 data. Rome: FAO. http://faostat.fao.org. And World Resources Institute (WRI) http://www.wri.org
Monetary Value: Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). 2007. http://faostat.fao.org/site/339/default.aspx (based on the 20 most important food and agricultural commodities)
Fiber Demand: National Cotton Council. 2009. Personal communication; calculation based on PCI Redbook, World Synthetic Supply/Demand http://www.pcifibres.com/

5) HOW MUCH U.S. COTTON REQUIRES IRRIGATION AND HOW MUCH IS GROWN WITH RAIN WATER

Janet N., Reed, Edward M. Barnes and Kater D. Hake, 2009, US Cotton Growers Respond to Natural Resource Survey. Technical Information Section. 2008. US Cotton Growers Respond to Natural Resource Survey. International Cotton Advisory Committee, THE ICAC RECORDER, Vol. XXVII. No. 2, June 2009

6) Oerke and Dehne (2004) Safeguarding production – loss in major crops and the role of crop protection. Crop Protection 23, 275-285


7) PESTICIDES USED IN GROWING COTTON

Agricultural Chemical Usage 2007 Field Crops Summary (Agricultural Statistics Board, NASS, USDA; May 2008)