GYPSET SPIRIT
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2016年春夏向けテキスタイルを発表する見本市、プルミエールヴィジョン(PV)パリとミラノ・ウニカ(MU)が、この2月初旬から中旬、相次いで開催された。
PVパリは、昨年9月展までは「PVプリュリエル」と呼ばれていた。それをこのように改称し、6つの見本市、すなわち「PVファブリック」、「PVヤーン」、「PVアクセサリー」、「PVレザー」、「PVデザイン」、「PVマニュファクチュアリング」を統合。巨大な見本市に生まれ変わった。
出展社数は1,793社、前年同期比20社増。中でも主要見本市の「PVファブリック」には、788社が出展。その内訳は、ヨーロッパが73%(そのうちイタリア350社、フランス89社など)、トルコ10%、日本や中国、韓国を中心とするアジア15%。ちなみに日本は、過去最高の44社が出展した。
来場者数は58,443人、前年同期に比べ一転、5%減少した。これはウクライナ危機やニューヨークファッションウィークなどの影響という。とはいえ来場国数は120ヵ国、海外からの来場は全体の73%に上り、グローバル化が進んでいる。
MU は、今年10周年を迎え、記念パーティを盛大に行うなど、盛り上がっていた。イタリアのテキスタイル産業も総売上高が再び成長に転じたという、明るい話題もあった。
出展社数は353社で、それに日本パビリオンの34社が加わる。来場者は雪に妨げられ伸び悩んだが、海外バイヤーは前年同期比2.5%増。ほぼ前年並みの18,000人が来場したとみられる。
はつらつとしたコットンの季節
2016年春夏は、生き生きとした陽気で魅惑的なファッションが広がる。ここでなくてはならないのが、溌剌とした表情を演出するコットンである。エレガントな高級綿100%のものから、ラフなタッチのものまで、また多様な素材とミックスされて、シーズンをリフレッシュする。
もう“ノームコア’(究極の普通)” は、飽和状態。流れは、そこから抜け出し、のびのびとした自由なテイストへ動き始めている。コットンは、その新しい可能性を引き出し、シーズンに思いがけない驚きと楽しさを創り出す。そんなコットンの季節が来ている。
ネオ・モダニズム 「ファッションは、保守化し過ぎている」と警鐘を鳴らすのは、MUクリエイティブチームコーディネーターのアンジェロ・ウズレンギ氏。「ファッションも、アートや建築デザインのようにイノベーションが必要」と「ネオ・モダニズム」のフィロソフィを発表している。
発想源は、スペインの画家、サルバドール・ダリの言葉、「Most of all remember the future.(ほぼ全てを未来は覚えている)」。ダリはルネサンス芸術に魅了されて、超現実主義を生み出した。同氏は「ダリのように、未来を創造することが求められている」と語る。
MUトレンドエリアには、この精神に基づく素材が並んだ。実用感覚も生かしつつ、イノベイティブなエスプリを表現する素材である。クローズアップされたのは、次の二つ。一つは、見た目シンプルでも、モダンにデザインされた素材グループ、もう一つは、アートやデザインの世界にヒントをとった素材グループ。
コットンも、この方向で、モダンな傾向が強調されるシーズンになっている。
二卵性双生児
PVファブリックでは、2016年春夏コンセプトとして「二卵生双生児」を打ち出している。これは本物とそれに似た偽物との関係性に焦点を当てるもの。コピーも、本物と等価であり、独自の価値を持つという。ある種ミメティスムの考え方でもある。
トレンドビデオも、それらしい人物を主役に構成。二人の交換と分かち合いが、意外性や斬新さを生む。テキスタイルも異質なものとの対話が、これまでにない新しさをつくるシーズン、というメッセージを発信している。
PVトレンド委員のサヴィーヌ・ルシャトリエ氏も、「規範からはずれた脱スタンダードなクリエーションが歓迎される」という。そして「違いをつくり、思い切ったファンタジーを採り入れるシーズン」と語っている。
異なるテイストや素材、カラーの組み合わせを基調に、新しい展開を見せるテキスタイル。PVは、その方向を次の3つのテーマで提案している。⑴ 張りと心地よさの新しい調和を探る「動きのあるテキスタイル」、⑵ エアリーな透明感を重ね合わせる「たっぷりと」、⑶ シンプルさとリッチなテクスチャーを結合する「本質の追求」。
とくに素材で注目されるのが、自然と人工のハイブリッド。テクノやスポーツの機能素材も、よりナチュラルな感覚へ、また官能をくすぐるエモーショナルなムードへ、動いている。
コットンも、固定観念を振り払い、さらなる洗練とサプライズをつくっていく必要があるだろう。
自然の息吹をモダンに 「二卵生双生児」というように、今季は自然を模したナチュラル感のある素材が目立つ。PVのトレンド委員長、パスカリーヌ・ヴィルヘルム氏は、“ラスティシティ”、つまり自然の息吹を感じさせる、野趣のある素材に注目しているという。コットンを中心に、リネンやラミー、またラフィアなど、爽やかでマットなクオリティ。またイレギュラーなタッチが微妙に溶け合う、クラフト感にスポットが当てられる。
とはいえ、これはノスタルジアから来るものではないことも強調。あくまでも演出はモダンに。そこには目に見えない最先端技術が潜んでいる。
柄も、マストは植物柄。とくに花のモチーフが、プリントで、ジャカードで、また刺繍やレースで多くなっている。文字通り百花繚乱といったところだが、重視されるのは、大胆に簡素化されたグラフィックや、実験的な柄。たとえばX線を照射したような花柄。
現代ハイテクで自然をモダンに表現する、この傾向はますます広がりそうである。
キーカラーはピンク 今シーズン、カラーは、見るからに心地よい、生きるエネルギーやバイタリティにあふれた色調が中心。中でもキーカラーとなっているのが、ピンク。
しかしここでも、「二卵生双生児」をイメージさせる色使いがみられる。PVのカラーレンジも、微妙なニュアンスの違いを楽しむ二色使いや、はじけるようなコントラストのデュオが主調。
ピンクも、冷たいダークや黒と組み合わせて、新しいハーモニーをつくる方向が示唆されている。
アウターもトランスペアレント
透ける素材がアウターにも登場。しっかりとしたコットンボイルなど、重ねて使うことでシースルーがカラフルな効果を演出する。
とくに見え隠れする部分的な透明感が重要で、露出を抑えたカットワークやオープンワーク、透かし効果。中でも人気は、半透明なダブルメッシュで、凹凸効果を付けた表面感のもの。
エンブロイダリーレースやラッシェルレースなど、織り・編み、様々なレースが大躍進。
カットジャカード・フィーバーも続いている。
リファインド・ラスティック
ラスティックで、しかも洗練された繊細なタッチの自然素材が、エレガントなスーツ地やシャツ地、ニットに大進出。ザラっとした肌理もデリケートな表現のものへ、スラブなどの糸使いも、ラフさを適度に抑えた、控えめなものが多くなっている。
またフリンジ使いも関心の的。テクスチャーにファンシーな魅力を与える、目新しい効果として、急浮上している。
さらにラミネートやコーティングを施したものへの関心も高まっている。
3Dボリュームは薄く軽量化
構築的なラウンドシェイプがトレンドとあって、張りのあるボリューム素材が引き続き人気。今シーズンはより薄地になり軽量化している。しかもその弾力性のある引き締まった質感に、立体的な3Dレリーフを付けたものが多くなっている。
ジャカードを中心にアートピケ、キルティング風のものもみられる。またふくらみのある段ボールニットも好評。加工では、塩縮やサッカー調、少し厚みのあるエンボス加工などが広がっている。テクニカルなストレッチの演出にも注目。
表情豊かでしなやかなテクスチャー
織り柄や編地で様々な表情をつけた、しなやかなテクスチャーが拡大。とくに注目されるのが、クリスピーなクレープタッチ。中でも強撚糸使いのさらっとした感触のコットンが人気。楊柳やシボ感、細かく波立っているような表面感、ランダムなシワ感。またジャージーも。さらにシックなバスケット織り、粒々状、幾何学組織、小さな凹凸、糸の不揃いを強調したものなど。
全体に生き生きとした動きを感じさせる、流麗感のある素材が中心。
透明感のある光沢
光沢感がまたしても台頭している。とくに冷たい透明感のある光。PVCやコーティング、ラミネート加工など、乱反射してキラキラ輝く水面のようなイメージで見られる。シックなツィードやレースへの加工も多く、その意外な組み合わせのギャップが、人気を呼んでいる。またカラー・ラミネートも新登場している。
メタリックも浮上。少し青ざめたゴールドが新鮮に映る。ちらちらと瞬くラメからメタル箔をのせたプリントやフロッキー、スパンコールを敷き詰めたものまで。概して落ち着いた上品な光沢で見られる。
春夏もダブルフェイス
「二卵性双生児」のメッセージもあり、春夏もダブルフェイスが豊富に見られる。一枚で二着分楽しめるアウターが増えていることもある。
注目されるのは薄地で、表が先染めで、裏がプリントのシャツ地など。裏に表の色が響かないプリントが増加。中には半透明なほど薄い両面ものも。光沢/マット、ざっくり/緻密、凹凸/滑らかなど、相反する表面感のものも多い。
またシャンブレー組織などのツーフェイス。さらに興味をそそられるのが、切りっ放しできるダブルフェイス。
マスキュリンなミクロのファンタジー
スーツ地やシャツ地に、マスキュリン調のミクロのファンタジーが浮上。小粋なミニチュアの先染めが広がりを見せている。千鳥格子やヘリンボン、エンド・オン・エンド、ギンガム、ミニチェックなど、マイクロドビーやジャカードのものも。
またプリントも、控えめな織り柄など縮小サイズの柄が目覚ましい勢いで進出。これまでとはひと味違う、ファンタジーへのアプローチを見せている。
シックなウォッシュ
肩の力を抜き、ほどよく崩した、“エフォートレス”がトレンドになっている。くつろいだ着こなしでも、エレガントな感覚は決して失わない。この落ち着いたカジュアルスタイルに向けて、ちょっと着込んだ雰囲気を醸し出すウォッシュ加工が求められている。
とくにワン・ウオッシュ程度のシックなウォッシュは、デニムに限らない。ナチュラルをキーワードに、あらゆる素材で目に付く加工となっている。
グラフィカルなストライプ
ストライプは、来春夏のシンボル的存在。幅広いカラーボーダーから、シンブルなマリーン風、糸やテクスチャーのファンシーなストライプまで、様々なものが出ている。中でもクローズアップされるのが、グラフィカルなストライプ。とくに強烈なヴィジュアルと組み合わせた、絵画調のデザインなど、アートからの影響を強く感じさせるものが目に付く。
プリントの焦点は花 今シーズンは、花や果物、花束といった、瑞々しい植物のモチーフが焦点になっている。PVトレンド委員長のパスカリーヌ・ヴィルヘルム氏は、これについて「ドラマティックな感覚よりも、楽しさや心地よさを求める気分のあらわれ。」という。
またジオメトリックや抽象柄の勢力も、依然として堅調。アフリカを思わせるエスニック調も多い、この影響から、花もフラットだったり、黒い縁取りやカラーブロックで描かれたり、アブストラクトやグラフィックにアレンジされたもの目立つ。
総じて、柄はシンプル化。見てすぐわかるようなデザインが好まれているといえる。ファンタジーを凝らしても、大げさになり過ぎないことが肝要のようだ。
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