ファッション情報バックナンバー

◆コットン・ファッション情報◆

2018/19秋冬コットン素材傾向
PREMIÈRE VISION PLURIEL 及び MILANO UNICA より

 パリ:ニコル・トットローより
 
<カラー>
ART DECO WAVE
PURPLE RAIN
TARTAN RANGE



パリ:ニコル・トットローより
<ファブリック>
  DANDY FOLLIES


CUSTOM DOLLS 


 HIGHLANDERS


UNITED UNIFORMS 


STREET REMIX 


 2018/19年秋冬向けヨーロッパの素材見本市、プルミエ―ルヴィジョン(PV)パリとミラノウニカ(MU)が開催された。MUは前年より2か月早い7月11日~13日に行われ、出展社数456社で前年同期比20%増となり、早期開催は勇気ある決断と高い評価を受けた。とくにレディス分野は29%増となり、メンズとレディスのバランスがよくなっている。
 PVパリは、9月19日~21日で例年通りの日程だった。これには7月にプレビュー展のPVブロッサムを実施していることもある。出展社数は、PVパリの6つの見本市全体で1,954社と、前年同期比3%増。国別ではイタリアが657社とトップである。主軸のPVファブリックには801社が参加し、初めて800社を超えた。来場者は前年同期比7.5%増の60,565人で、6万人の大台を突破した。その内73%はフランス以外の129か国からの来場で、日本は7%増の1,791人となり、来場者ランキング9位につけている。
 PVパリでは、WEBサイト「マーケットプレイス」の立ち上げも発表された。これは出展者とバイヤーをつなぐデジタルプラットフォームで、来年公開という。世界最高峰のPVパリが発信する情報の集大成となる見込みで、中長期的な目標として出展社数1,500社、商品数70,000点、バイヤー25万人を目指している。MUも規模や性格が少し異なるものの、類似の「MU365」を準備中で、見本市の機能を補強する。両者とも今後のデジタル展開に注目が集まっている。


【全 般 傾 向】

独創的な未来に向けて
 2018/19年秋冬のファッションは、よりラディカルで大胆な方向へ変容すると予想されている。ファブリックは総じて独創性あふれるものになってくるとみられている。
 こうした中で、コットンも独創的な未来を切り拓く素材として、ここにきて再度見直されている。PVパリにおいても、MUにおいても、コットンはそこかしこでその存在感を高めていた。
 まずPVパリで、新スローガンとされたのが「クラウド・オブ・ファッション(Cloud of Fashion)」、すなわち「ファッションの雲」だった。雲は、ふつふつと沸き上がる創造の泉を表している。アイディアや分野の異なるもの同士がクロスオーバーしながら、雨粒となって滴り落ち、イノベーションをもたらす、といったイメージである。白い雲は、まさに千変万化なコットンを思わせる。
 次にMUでは、今季は映画が主題だった。映画とファッションを関連付けたテーマで、打ち出されたのは名場面を彩るドラマティックな世界観である。トレンドエリアを埋めたのは、その夢のようなイマジネーションにインスパイアされたファブリックで、コットンも様々な形で散りばめられ、個性豊かな小宇宙を表現するのに一役かっていた。
 またここで一つ、忘れてはならないのがサステイナブルへの取り組みである。環境への責任と敬意の追求が、将来に向けた賢い選択であるとの認識が広がっている。その主役として前面に登場しているのが自然素材のコットンである。
 コットンは今再び、未来を描く素材として期待されている。

リアルとデジタルの間
 ネットやSNS情報が氾濫する現代は、リアルな現実と、デジタルな非現実の世界がぶつかり合うこともあれば、みごとに融合したりもする。PVパリのトレンド委員の一人、サビーヌ・ルシャトリエさんは、「その狭間を考える必要がある。独創性は実感を経て現れてくるもの」と語る。そしてデジタル化が進めば進むほど、重要になってくるのは人間の五感であるという。中でも存在感を主張するのは触感で、非物質のデジタルに対してファブリックはしっかりと手に捕らえられるものが求められるようになる。それも見た目とは異なる感触が、これまでにない新しい刺激となって感性を目覚めさせるともいう。
 そこに介在するのはテクノロジーである。目に見えない高次加工や巧みな糸・組織使いなどが、現実を大胆に凌駕、好奇心を掻き立てるような質感を生み出す。
 コットンも自然のままの良さを全面に押し出すというだけではない、綿100%と言われて初めて気づくようなテクニカルな素材感のものが多くなっている。新感覚素材の中には、異素材との相性がよいコットンとの組み合わせもよく見かけた。今回初出展したCCI国際綿花評議会でも、米綿の様々な高機能加工が提案され印象的だった。

自由奔放なエネルギー
 
独創性を重んじるテキスタイルに、満ちあふれるのが自由奔放なエネルギーである。春夏の「ファン・ファースト(Fun First 楽しさが一番)」以上に、楽観主義的な精神が蔓延している。これには最近の政治情勢やテロへの不安感から、緊張を吹き飛ばしたい思いも絡んでいるようである。前述のサビーヌさんは「今あるものすべてを笑い飛ばしたいムードがある」という。「真面目はつまらない。ユーモアが大事で、楽しくなければファッションではない」、そんな空気感が充満しているようである。
 ひねりや逸脱志向から、クラシックはそれとは分からないほどにアレンジされ、一風変わった遊び心のある装飾も登場する。超太い糸使いや長く伸びるカットヤーン、糸むらや色むら、わざと崩した仕上げ、ポップなモチーフ、メタリックやプラスティックなど、楽しいエスプリを効かせたキッチュもいっぱい。
 それはパワフルな80年代を再び感じさせもする。ミラノウニカでは当時の映画に因んだバブリーなブルジョワの雰囲気を盛り込んだトレンドを提案した。赤をキーカラーに伝統を贅沢に遊んだり、きらめく光りで豪華さを表現したり、東西の融合を意識させるエスニックで華美を印象付けたり。
 カラーは光の陰影を感じさせるシーズンが予想されている。冬とは思われないようなブライトな彩りが見られ、バイオレットや赤、それにグリーン系の深みのある濃色が目立つ。アンチ・ブラックの様相も強まり、黒に替わるカラフルなダークが光沢/マットの神秘的なニュアンスで配される。従来の枠組に縛られない自由な組み合わせのカラーパレットで、それはまるで一つひとつの色同士がお互いに対話を楽しんでいるかのようにも見える。  
 2018/19年秋冬はそんな明るい陽気で解放的な気分が広がるシーズンといえそうである。


【コットン素材のポイント】

ファインなコンパクト
 コンパクトで繊細な表面感の高密度素材が浮上している。薄地で軽いブロードやツイル、パリッとしたハリやシワ感のあるパラシュートクロス。また温かい圧縮フエルトのようなタイプ、厚地のサテン。それにシルキーなクレープも。さらに薄手のキルティング、裏毛、細ゲージの滑らかなニット。ストレッチ性とフィット性を増した締まりのある薄さが焦点。

きらめく光
 ストレッチするサテン系の素材やメタリックなど、光りや光沢が艶消しを凌ぐ勢いで伸びている。薄いコーティングやラミネート加工、ラッカー加工を施した滑らかな表面のコットンも多い。ラメは輝きを強くし、スーツ地のツィードやブークレの内部に入り込んでチラチラ煌めく。見る角度で色が変化する玉虫や虹のような艶感、モワレ効果への関心も。

伝統をひとひねり
 伝統的な素材、例えば英国調チェックなどにひねりを加えてモダンに仕上げる。お馴染みのヴィジュアルを手触りが異なる素材に転用したり、またこれまでならあり得ないような異質のものと組み合わせたり、似て非なるものが意外な感覚で目新しく映る。メンズスーツ地に見られる柄も、太い意匠糸を打ち込むなどイレギュラーな糸使いで新たな表情に。

奇妙なテイスト
 ジャカードや刺繍、レースといった装飾的な素材を中心に、夢の中から出てきたような奇妙なテイストの意匠やパターンが注目される。バーチャルとリアルが分かちがたく共存するファンタジーの世界。現実にはない風物や花、暗号化されたモチーフ、またダークで神秘的な渦巻や波模様、サイケデリックなイメージも。揺れ動くフィル・クーペとともに。

ふんわりソフト
 やわらかい、ふんわりとした毛足の長い素材や起毛加工が多くなっている。ぬいぐるみのように思わず撫でたくなる、とろけるような手触りの高級感のあるフリースやファー・パイル、起毛加工、ネル、モールスキン、それに毛羽のあるシェニール糸使いも目立つ。靄に包まれているかのようなソフトな色合いで、空気をたっぷりと含んで温かそう。

コーデュロイやベルベット
 コーデュロイやベルベット、ベロアが人気を集めている。コットンなのにウールのような外見だったり、ニットなのに布帛に見えたり。とくにコーデュロイは細畝から太畝までバリエーションが拡大。複数の畝のパターンを組み合わせたファンシーなものへの関心も。動きのあるパン・ベルベットも見逃せない。ビロードのようなフロッキー加工にも注目。

意表をつくダブルファブリック
 ニードルパンチ、ボンディングがますます増えている。色柄を始め、素材の動きやタッチなど、意表をつくコントラストが重要。プラスティックのような光沢に起毛パイルなど、テクニカルな接合も目立つ。ダブルフェイスやツーフェイス、表裏で糸の太さや編み目の異なるもの同士の組み合わせなど、あらゆる試みのダブルファブリックが満開のシーズン。

広がるデニム
 デニムがシェアを伸ばしている。ノンウオッシュからウオッシュ、ダメージ加工まで様々。ラスティック調やシンセティックな光り、また撥水効果のプロテクト性に富んだ強靭なデニム、逆にしなやかな薄地デニムも好評。ストライプなどの先染めやジャカード、プリント、フロッキー、裏パイルやシープスキンとの組み合わせ、さらにリサイクルデニムまで。

パターンやプリント
 まずは優美な花柄が人気。現代的でありながらポエティックで、ビンテージの雰囲気を漂わせている。フェミニンな花とマスキュリンやジオメトリックなど、異質なモチーフとの組み合わせも目に付く。次に幾何学模様は、やわらかい表現が多くなっている。手描き風のグラフィックも目立つ。曲線的に波打つストライプ、輪郭がはっきりしないカラーブロック、並び方が乱れているドット、絵筆のストロークがはっきり見えるようなタッチなど、無機質な柄に温かみを添える方向。機械的な反復は敬遠される。さらに幻想的な森や自然、神秘的な風景柄も目新しい。伝統的な織柄やチェック柄、アラン編みのような編地やレース柄のプリント、だまし絵も復活している。重ね合わせる、変形させる、地柄を入れて複雑にする、穴をあける、凹凸を加えるなど、様々なテクニックがみられるのもポイント。