ファッション情報バックナンバー

◆コットン・ファッション情報◆

2019 春夏コットン素材傾向
PREMIÈRE VISION PLURIEL 及び MILANO UNICA より

 パリ:ニコル・トットローより
 
<カラー>

SLOW LIFE
RIVIERA SUN
HEATWAVE


パリ:ニコル・トットローより
<ファブリック>
 FLOWER PARADISE


SAINT TROPEZ BOHEME 

GREEK CHIC

NOMAD'S LAND 


GO WEST  


 2月初旬から中旬、2019年春夏に向けた見本市、プルミエール・ヴィジョン(PV)パリとミラノ・ウニカ(MU)が一巡した。世界経済の景気概況が堅調を維持していることもあり、両見本市ともに活況だった。
 今期の出展社数はPVパリが6つの見本市全体で世界50か国から1,725社、うち日本から60社、軸となるPV ファブリックに811社が出展し、昨年2月展比1.6%増と微増した。  
 一方MUはイタリアと欧州諸国が前年同期に比べ14%と大幅に増加し416社、それに日本34社と韓国20社が参加した。
 来場者数はMUが来場した企業数で5,949社と前年比2.4%増。PVパリは54,500名で微減した。これは中国の旧正月と日程が重なったことや、最近の小売業界の変容に伴う課題を反映するものと分析されている。ともあれ会場構成の刷新や魅力的なプログラムもあり、会場は活気にあふれていた。

サスティナビリティとデジタル技術
  今回PVパリとMUの双方が足並みを揃えるように打ち出したのが、サスティナビリティとデジタル技術の2大潮流である。
 まずサスティナビリティでは、MUが「セーブ・ザ・プラネット(Save The Planet ―地球を救え」のメッセージを発信した。これを基にトレンドエリアには、初のサスティナブル素材に焦点を当てたエリアが開設され、このエリアを中心に、三つのテーマ、「水」、「空気」、「大地」のコーナーが設けられた。
 PVパリも、トレンドの基調は「エコ」である。従来のファブリックのみのトレンドフォーラムに代わる、6つの業種すべてを網羅する「PVパースペクティブ」を新設し、エコを強力にまたわかりやすく提案した。またもう一つの「ファブリック・セレクション―エッセンシャルズ」も「エコポイント」を設置し、環境に配慮したクリエーションを後押しした。
 メインヴィジュアルは青空が広がる爽やかな大草原で、その上に砂漠のオアシスがコラージュされる。天空から一人の人物が砂漠に水を降り注いでいるシュールな画像である。人間は自然環境に責任があることを認識すべきと訴えかけているようである。
 キーカラーは穏やかで心地よいニュアンスのグリーン。このグリーンは随所に満ちあふれ、エコの気運を盛り上げていた。
 次にデジタル技術では、PVパリの二つの取り組みが注目される。一つはファッション・テックで、昨年2月にローンチした「ウェアラブル・ラブ」の規模を拡大して前面に訴求した。フランスのオートクチュール連盟と協業するなど、ファッション業界の将来にとって重要な戦略と考えているという。もう一つはB to B(企業間取引)のデジタルプラットフォーム「マーケットプレイス」で、今年7月に始動、9月展で本格スタートの予定となっている。中長期的目標として出展社数1,500社、商品数100,000点、バイヤー25万人を目指す。
 MU も、デジタル技術は未来と向き合う姿勢に進化を促す刺激になるとして、積極的に推進している。現在、昨年発表したサイト「MU365」を構築中で、今年末には立ち上がる見込みという。

リアルとデジタルの間
 ネットやSNS情報が氾濫する現代は、リアルな現実と、デジタルな非現実の世界がぶつかり合うこともあれば、みごとに融合したりもする。PVパリのトレンド委員の一人、サビーヌ・ルシャトリエさんは、「その狭間を考える必要がある。独創性は実感を経て現れてくるもの」と語る。そしてデジタル化が進めば進むほど、重要になってくるのは人間の五感であるという。中でも存在感を主張するのは触感で、非物質のデジタルに対してファブリックはしっかりと手に捕らえられるものが求められるようになる。それも見た目とは異なる感触が、これまでにない新しい刺激となって感性を目覚めさせるともいう。
 そこに介在するのはテクノロジーである。目に見えない高次加工や巧みな糸・組織使いなどが、現実を大胆に凌駕、好奇心を掻き立てるような質感を生み出す。
 コットンも自然のままの良さを全面に押し出すというだけではない、綿100%と言われて初めて気づくようなテクニカルな素材感のものが多くなっている。新感覚素材の中には、異素材との相性がよいコットンとの組み合わせもよく見かけた。今回初出展したCCI国際綿花評議会でも、米綿の様々な高機能加工が提案され印象的だった。

未来はコットンとともに
 
太陽エネルギーを活用して生産されるコットンがサスティナブルな素材であることは言うまでもない。デジタル技術を駆使した精密農業の導入で水や農薬の消費を抑える取り組みも進んでいる。
 PVパリでは「PVヤーン(糸とファイバーの見本市)」に、「COTTON USA」(CCI国際綿花評議会 本部:ワシントンD.C. )が出展し、「What’s New in Cotton™(コットンの新機能)」をテーマに、アメリカ綿COTTON USAによる最新のアパレルイノベーション技術を披露した。綿繊維のさらなる軽量化や抗菌消臭、スキンケアなどを始め、DNAレベルでのトレーサビリティ技術が来場者の関心を集めた。 
 またMUでは日本の鈴木晒整理が、純綿でシワにならない加工や綿100%ストレッチを紹介した。合繊の機能と触感を持つ画期的な綿素材と好評を博した。
 古き良きコットンもこのように最新テクノロジーによって進化している。カジュアルとみられていたコットンがより洗練度を増して、フォーマルに変身したり、アウトドアスポーツに身体をプロテクトする装備のコットンが登場したり。いずれも見た目ではわからない機能である。
 2019年春夏は、こうした隠された目に見えない機能が注目されるシーズンである。未来はコットンとともにある。

「ハイブリッド」はウィンウィンの関係で
 こうした中、トレンドとして「ハイブリッド」というキーワードが再び浮上している。今シーズンは、今では当たり前となった異素材複合というよりは、お互いの長所を認めて共存し合うハイブリッドへ動いている。いわばウィンウィンの関係で、混然一体化していても、両者の良いとこ取りをする。天然繊維も合成繊維も相互に不足なところを補い合う。そうすることで環境にやさしい機能的で魅力的な素材をつくる方向である。 
 たとえば肌触りのよいコットンを内側にしたダブルフェイスや、なめらかなシルキーに植物繊維のスラブ糸を入れてイレギュラーな味を演出したシルキー、透けるものと不透明なものを組み合わせて立体的な奥行きをつけたもの、ナチュラルな素を感じさせる表面に薄膜のコーティングやラミネート加工、メタリックなど。
 異質のもの同士を掛け合わせて相乗効果を高め、より洗練された完成形をつくる、ハイブリッドへの動きが広がっている。

色と光りにあふれる季節
 2019年春夏は太陽光の下、明るい色と光りあふれる季節。不透明な先行きを吹き飛ばす楽観的なムードが予想されている。
 テキスタイルは全般にシンプルになり、洗練された繊細な感覚を増す。落ち着いた静かな雰囲気の中に、活き活きとしたフレッシュな表情を宿したものが多く見られる。テクノロジーは詩情豊かな表現へ、とくに植物や水の動き、反射光など、自然界からのアイディアが目立つ。 
 タッチはあくまでも軽やかで、しなやか。ハリ・コシのある風合いも台頭している。ベーシックにひねりを効かせることが重要で、透明感のある薄地に人工的な光沢をつけたり、ボリュームを持たせたり、またかっちりした質感にフェミニンな要素を加えて、実用一点ばりのそっけなさを和らげたり。
 カラーは和らいだカラフルな色調で、微妙なニュアンスに富んでいる。グリーン系を中心に柑橘系のオレンジやイエロー、花のピンクなど。ニュートラル系も植物の樹液を思わせるカラーが提案されている。明快で濃密なカラーや細かいパウダーをまぶしたような色、淡い光輪を放つ明色、ゼリーのようなきらめく色が見られるのも、色と光りに満ちた今シーズンの特徴である。

【コットン素材のポイント】

ノーブルでコンパクト
 すっきりとノーブルでコンパクトな軽量コットン。弾力性があってストレッチする、着心地のよいポプリンなど、非の打ちどころのないウルトラ無地にスポットが当てられる。精密なコード織やオットマン、ピケ、ふくれ織。エンボスなどによる起伏も規則性にこだわったものへ。  

爽やかな細かい起伏
 ナチュラルな小さいシワ、ネップ、洗い加工によるランダムな仕上がりや、完璧にアイロンかけされていない風合いが生み出す表面の繊細な起伏。細かい凹凸を刻むサッカー、リップル、シボ感のクレープなど、ソフトな感触はそのままに、すっきりと爽やかな不完全が浮上している。

半透明な動きに関心
 軽やかでエアリーな透ける素材は、半透明な動きをつけたものに関心が集まっている。オーガンジーやシフォン、ボイル、ガーゼなどに、光沢や二枚重ね、立体効果、意匠糸などを加えて一工夫。そうすることで奥行きとハリ感も出せる。薄手のカットジャカードやオパール加工のモダンな表現もマークされる。。

クリーミーなしなやかさ
 ドレス系のやわらかいテキスタイルで、クリームのように肌にやさしい、しなやかな触感への興味が広がっている。きっちりとした構造とテクスチャーを保ちながらも、伸縮する丸みのある風合いだったり、フワリと滑らかでエレガントな感覚だったり。適度なハリ・コシとしっかりとした手応えにも注目。

光りの演出
 光りの躍動感を演出したテキスタイルが増えている。華やかなメタリックから繊細そのもののパウダリーな輝き。またシャボン玉のような透明な虹色の光沢、クリスタルを思わせるきらめき、プラスチックのような透明感のコーティングも広がっている。さらに見る角度や生地の動きで表情が変わる、玉虫の光沢も。

ドライなリネンタッチ
 スーツやジャケット向けに人気なのが洗練されたドライなリネンタッチ。抑制の効いたイレギュラーな無地調やグレンチェックなどの先染め、また一見ラフな意匠糸使いで織り組織にメリハリをつけたツィーディな感覚のものなど。大人のシックなイメージで、静けさの中に爽やかな明るさやヴィンテージ感を感じさせるものが多い。

シャツやブラウス地
 軽く薄いシャツやブラウス地が、レディスにもメンズにも豊富に提案されている。しなやかでなめらかな表面感、洗練された繊細なスラブ・ネップ入りのナチュラルな味わいのもの、ヴィンテージ調のシャンブレーも。先染めは、デザイン性のあるストライプが主役。また微細なドビーを組み合わせたミニチェックやラメ入りなど。

布帛感覚のニット
 薄手の高密度な編地では、布帛感覚の伸縮を抑えたニットが進出している。スウェットは高級感を演出する光沢や輝きを放つものが目立つ。外側はメタリックやプラスチック風の光沢感、内側はコットンの、ふっくらとしなやかなハイブリッドなど。表面にリブやサッカー風の繊細な起伏を出した軽快なニットも。

拡大するデニム
 デニム市場は今や、ジーンズカジュアルに限らず、ラグジュアリーからファッションブランド、WEBサイトまで拡大し、大きな関心が寄せられている。ストレッチは必須装備で、しなやかでソフトなタッチのものから、ナチュラル感のある表情豊かなデニム、爽やかな清潔感のある洗い加工、シンプルなストライプ、ジャカードまで様々。

シンプルで技ありのパターン
 プリントやジャカード、レース、刺繍など装飾的テキスタイルはシンプルなヴィジュアル表現が多くなっている。その一方で極めているのが、パターンや意匠に見られる職人の巧みな技。洗練された柄行きや色使いはまさに技ありといっていい。やわらかい繊細な色調やトーン・オン・トーンがシーズンをリズミカルに彩り、モノクロームをリッチに見せる。花模様やストライプはピッチが大きくなり、モチーフはサイズが拡大されて、抽象的に表現されたものが目立つ。
 花柄は、生き生きと庭に咲く花を描いた写実的なものから、華奢な線描、印象派絵画風、田園調、またロココ風のロマンティックなものまで様々。またサファリやクルージングのようなバカンスの思い出を語るモチーフも多い。ジャングルの植物や鳥、魚、動物など。スカーフのようなパネル柄も目に付く。幾何学柄では意図的に錯綜(さくそう)やずれを表すグラフィックが目新しい。さらに渦巻模様や視覚効果のあるアラベスクなども。
 最後に光沢とマット、透明と不透明、凹凸などの地組織とパターンの巧妙な組み合わせが注目されていることも特記しておきたい。