パリ:ニコル・トットローより <カラー> SOFT POWER VITAMIN SHOT COLOR LAND |
2023年春夏向けパリとミラノの国際素材見本市がこの2月上旬、相次いで開催された。 両見本市ともアジア諸国の存在を欠いたものの、業界の再開を示し、明日のファッションの課題に応え続けるべく、会期を成功させた。
クリエイティブなエコ志向 ここ数年間、PVパリとMUが推進しているコンセプトがサステナビリティである。環境への配慮を目指す製品・アイデア開発は、留まることを知らない勢いで進化している。2023年春夏は、クリエイティブでありながらエコ・レスポンシビリティを志向する動きが浸透し、見本市全体をカバーする大きな潮流となっている。 これを踏まえ、PVパリのサステナビリティに特化したフォーラム「Do it sustainably」では、サステナブルな植物繊維、コットンに大きな目が注がれ、リサイクルや生分解性など、シーズンのイノベイティブなエコ素材が紹介された。 原材料から製造過程に至るまで、エコおよび倫理を志向する流れは、広い意味でのファッション産業の創造性と創意工夫の証と受け止められている。環境と社会への責任を意識した素材開発や、環境へのインパクトを減らした製造ソリューションへの投資に力を入れる業界の動きがこれまで以上に注視される。 エコと「目新しい楽しさ」の対話 前回9月展はロックダウン後の解放感からファンタジーへの欲求に目覚めたシーズンだった。今回はそこにサステナビリティへの大きなうねりが加わった。2023年春夏は理性的なエコ・レスポンシビリティとファッションの持つ「目新しい楽しさ」がバランスを取りながら対話するシーズンになる。 エコとファンタジーというと相対する概念と思われがちだが、今やあらゆるものが相互に影響し合う複雑な世界に突入している。リアルとバーチャル、ナチュラルとアーティフィシャル、スローとファストといった二元的な概念は、対立ではなく共存であり、それ以上に結びつき対話している。 流行を追うファッションの楽しみと社会的責任を意識した製品開発を対峙させず、この二つの間に橋を架けて均衡を図る。これにより感動、自由な発想と、強いエコ意識に繋がりを生み出し、意表をつくカラーやデザインを追求して製品の既成概念を“ひっくり返す” ことがクリエーションを豊かにする。 製品差別化のファクターは、環境に配慮しつつ、外見の美しさや手触りで完璧を追求するクリエイティビティであり、視覚に瞬時に訴える力である。 自然とデジタルへ誘うカラー 2023年春夏カラーは、自然の深みとデジタルの広大な世界へと誘うレンジ。力強く深みのある色、活力と勢いのある色、繊細なピグメントの色合いなど、様々なタイプのトーンが共存し、相互にリンクして、ジェンダーの流動性を促し、色彩の横断的な使用を容易にしている。 PVのカラーは次の3つのラインで展開されている。 ① 「ストロング&ルーツ」―大地と植物界からインスパイアされた堅実で地に根を下ろしたカラー。厚みのある肥沃な色に砂を思わせる乾いたカラーを組み合わせて、有機的な色彩世界を構成している。 ② 「センシティブ・シェード」―ブルーからピンクへと滑らかに変化する感受性豊かなカラーパレットで、暖色と寒色の間を揺れ動くやわらかなハーモニー。 ③ 「ヴィム&ヴィガー」―エネルギッシュで弾むようなトニックカラーで、デジタル世界の速度と光りを表現する。 また注目色となるのは3色。 【ホワイト】漂白など化学物質使用による環境への悪影響という問題がつきまとうが、現在では遜色のないピュアホワイトを得られる代替技術が存在する。今季はテクスチャーや感触に触れて、実体感のある素材の白とデジタル機器のモニターが発する輝かしいホワイトの双方が焦点となる。 【ブラック】最も多く使われているカラーであり、海藻などの天然染料の利用が進み、ウルトラダークな黒を実現するサステナブルな代替ソリューションが登場している。 【ブルー】ピンクと並ぶ人気色で、クラシックなマリンブルーに限定されない様々なニュアンスのブルーが台頭。新たなデュオとしてグリーンとブルーが涼しげに、また穏やかな強さを持つツートーンカラーで浮上している。 サステナビリティ 今シーズンの主役は、多様性とトレーサビリティ。環境に配慮した素材や工程が急テンポで広がり、原材料から最終加工に至るまで、地球上のあらゆる経路がたどられて、その影響度が分析されている。サステナブルなコットンやリサイクル素材、植物性タンニンなめし革といった定番の素材にとどまらず、環境負荷低減のための資源や技術が持つ様々なクオリティが提案されている。 植物繊維の優越性 コットンを中心とした植物繊維が表現する、きちんとした上質感や清楚さ、完璧な滑らかさがクローズアップされる。手に触れて実感できる、その自然な風合いに目が注がれる。秀でたホールド感を実現するために、打ち込み密度は緻密に計算されている。ニートなシャツ地に注目。またヴィンテージ風のしなやかで美しいレディススーツ地向け生地も。 勢いを増すタクタイル(触わって感じられる感覚) 22/23年秋冬は、大胆な発想でパワフルなファンタジーの世界に飛び込むシーズン。インパクトのあるクリエーションがバイタリティあふれるカラーで提案される。ポップなグラフィックやゴージャスな花、アニマル、過剰とも思える幾何学的な表現、また煌めくメタリックやスパンコールもふんだんに。さらにフリンジや思わず触りたくなるような触覚的な効果も。 あらゆる装飾のノウハウを駆使してチャレンジする季節が到来している。 。 センシティブな流動性 シルクパウダーのように滑らかでフリュイドなクレーブデシンを思わせる風合いや、より繊細で流れるようなドレープ性のあるシルキーなコットンサテン。ベルベットのような、スベスベした落ち感の不思議な感触のものも。色彩はくすみがないというよりはむしろ華やかで、輝くラメ使いや、水が反射して光っているような濡れた光沢感のものも。 牧歌調ファンタジー 23年春夏の装飾に見られる、不思議なパラドックス! 一つはひなびた地方への憧れ、田舎の家にありそうなキッチンリネン、民芸品のアーカイブ、野の花のモチーフ、クロスステッチ刺繍、かぎ針編み風など、カントリースピリット。その一方で、蛍光ペンやアーティフィシャルなものを好んで使うテーマもある。ケミカルな光りを放つツィードや、スポーツやゲームの世界にありそうなジャカードやレース、刺繍など。 シャーティング(シャツ地) 光輝く効果は全開。反射光はプリズムのように変化に富み、ときにアグレッシブと思われるほどに高められる。注目はゴールド。続いてシルバーやコパー、カラーメタリック。流動感のあるクレープやジャージー、ファンシージャカードに、ラメ糸を介して、あるいはコーティングやラッカー、ラミネート加工が施されて、冷たい光りを放つ。グラマラスでリキッドな光沢は、トップスやニットドレスを立体的に見せ、アウタースポーツを華やかに見せる。とくにダウンはより楽しいものになって、ゲレンデや街を闊歩するだろう。 マスキュリン・コート&ジャケット シャツ地は間口広く、綿100%クラシックからファッショナブルなものまで多面的。温かい感触のコットンチェックはジャケット向けにしっかりとした綾組織に織られていたり、フェミニンに流動感のあるシルキーなタッチを持たせたり、セルロース系とブレンドしてドレスへの道を開いたり。 エコへの新提案も見られ、漂白しない生成りの少し退色したよう色効果のものや、色付き綿花による無染色の先染めも浮上。タータンも地色をベージュやカラーミックスにして和らいだ表情に。 デニム・ファンタジー デニムは「北欧の自然」をテーマに、雪景色の中を散策したり、凍りついた自然に思いを馳せたり、星空の下で夜を過ごしたりして季節を表現する。流氷を思わせるワッシャーや、レーザー加工で氷にクラックを入れたような表面感、うねる波や海図を思わせるジャカード。またフローズンした花や霜の降りたハーブのモチーフ。夜空に瞬く星をラメで表したダークなデニムも。 ストレッチなどの実用性、環境への配慮を再考する流れも活発化。天然顔料使いのピグメント加工で色素をランダムに洗い流したようなオーバーダイも台頭。また防寒を意識したデニムでは裏起毛を始めフロッキー、ベルベットのような質感から、解れた糸、浮いた糸でボサボサの髪の毛に触発されたような乱れた手触りのものまで。 用途を広げるニット ニットが進化し、布帛に接近。外見上、ニットか織物か?区別のつかないものが登場し、ニットと織物の市場間競争が始まっている。 ニットの需要を支えているのはスポーツウェアで、そのシェアは9割に上る。このニットがシティスーツやドレスシャツに進出。テーラード技術を保持しながら、シルエット全体にニットを取り入れるブランドも見られる。 織物も反撃に出ている。ストレッチ機能を高めたり、糸を工夫したり、ニットのような布帛を開発、高性能でありながら、セーターのように簡単に着こなせるストレスを感じさせないものを生み出している。織物は緻密で同じ重さでもニットの10倍の強度があり、スポーツ分野に向いているともいわれる。 ニットと織物、それぞれどこまで領域を拡大するか興味深い。 プリント モダンアートの美術館にはテキスタイルデザインのアイデアが詰まっている。今季はその無限のアーカイブを探求するシーズン。モチーフは時にフレームからはみ出すほど極端に拡大されたり、壁紙のように地肌をほとんど残さずに埋め尽くされていたりする。 スケールの大きいものではアンニ・アルバースやヴァザルリなどの幾何学的な抽象画に着想したもの、また小柄ではリズミカルな反復を繰り返すネクタイ風の柄など。うねる曲線や渦巻のモチーフも多く、ソフトなグラフィックで60年代やサイケデリックを想起させるものが見られる。 花は100%装飾的に表現され、インド更紗や英国のアール・デコを思わせるパターンが目に付く。さらに東欧や中欧のスカーフ柄に見られるようなパルメットやロゼット、フォークロア調の様式化された花のバリエーション。イカット風やオリエンタルラグのデザインをピクセル化したものへの関心も。 |