パリ:ニコル・トットローより コットン カラー <SOFT DESIRE> <SWEET FANTASY> <DARK ROMANCE> |
2025/26年秋冬向け欧州のファッションテキスタイル見本市は、プルミエール・ヴィジョン(PV)パリが7月2日から4日までパリノール・ヴィルパントで、ミラノウニカ(MU)が7月9日から11日までミラノフィエラ・ローで開催された。
PVパリは、パリ五輪直前のタイミングで多くの企業が混乱を懸念し、出展を取りやめたことから、出展社数は前年同期比約30%減の937社にとどまり、展示スペースも縮小された。また、来場者も減少し、今回は初めて個人ではなく企業数でカウントされ、約8,000社と発表された。 一方、MUは出展社数が約700社と前年同期比22%増加し、来場企業も5,541社で18%増と、大きな賑わいを見せた点が対照的であった。 進化するサステナブルなコットン サステナビリティが定着した今シーズン、コットンもサステナブルを強調するのではなく、必要に応じて対応するという姿勢の出展者が多く見受けられた。未来を拓く鍵は、その進化を明確にしていくことにある。 特に品質向上の要となっているのが、トレーサビリティ(追跡可能性)の確立で、例えば、再生型や精密型農業を導入したコットンやウールの生産、ヨーロッパ産リネンの高品質を証明する認証、動物福祉を保証する家畜農場の監査が実施されている。また、人工セルロース素材においては、森林伐採の回避やリサイクルによる持続可能性が確保されている。 さらに、資源の保存と環境影響の低減を目指し、トウモロコシやサトウキビから作られるポリマーや発酵技術を用いた新素材が市場進出を進めている。エネルギー消費の最小化やPFC排除技術の進展、シーズンに相応しい100%コットンのフェイクファーにも注目が集まっており、植物性染料のさらなる拡大にも関心が寄せられている。 加えて、循環型の最適化に向けた取り組みが進行中である。耐久性の高いデザインとリサイクル技術の向上が進んでおり、スイスのサンティス・テキスタイル(Santis Textiles™)のバージンファイバーと同等の品質を持つリサイクルコットンや、クローズドループ・リサイクリング技術はその一例である。また、コットンとリネン、リヨセルなどをブレンドしたセルロース豊富な素材が、化学的リサイクリングの最適化と新しいセルロース系素材の開発に寄与している。 トレンドコンセプトは「エクストリーム(極端)」 25/26秋冬シーズンのトレンドコンセプトは、究極の「エクストリーム(極端)」が焦点。世界は現在、戦争やテロ、環境問題など、極端で多様な事象に揺れており、これらが「コントラスト」を際立たせる特別なシーズンを形成している。 ファッション市場は持続可能性と卓越した技術を追求する一方、新しい表現やファンタジーを求める欲望との間で緊張関係にある。このシーズンは、長持ちする品質やタイムレスな服を求める責任ある消費と、エキセントリックな装飾性への強い欲望が共存する、矛盾に満ちた時期といえる。 このコンセプトのもと、次の3つのテーマが提案されている。 卓越したミニマリズム ファッション市場では、簡素化と豪華さの二極化が進行中である。選択肢の豊富さが飽和感を生み出し、整理と選別の必要性が高まっている。簡素化には高度な技術とノウハウが求められ、豪華さは品質に焦点が当てられている。ミニマリズムが新たな贅沢として認識され、過剰な時代に調和をもたらしている。エレガントでシックなファッションを追求し、素材の品質と柔らかさを重視しながら、新たな豊かさと機能的なシンプルさを融合させるテーマである。 多様な華やかさ リサイクルやアップサイクル、古着の需要に応じ、多世代や多文化の影響を受けた新たな多様性と華やかさが誕生している。異なる時代や文化が融合し、コードが交じり合うことで、陳腐さや画一性から解放された新しい複合的な美的スタイルが生まれている。自由と想像力を尊重し、ルールや制約を超えた創造的な空間の必要性を反映するテーマである。 ボディの表現力 身体は多様な表現を可能にし、柔らかさから力強さ、控えめさから挑発まで、その姿を自在に変える。衣服は単に身体を覆うのではなく、その多様な表現を伝える役割を果たしている。ランジェリーのような伸縮性や透け感のある素材は重要であり、肌になじむカジュアルなコットンやシルキーで滑らかなドレープが快適さと洗練さを提供する。身体の表現力を存分に発揮するテーマである。 カラーは「コントラスト」のシーズン 今シーズンのテーマは「コントラスト」であり、色彩の多様性と対比の力を最大限に引き出すことに焦点が当てられている。複数の対立する要素が調和するカラー・レンジは、現実と幻想、快適さと躍動感といった二極の間で生まれるカラフルな遊びを表現している。 PVで提案された3つのキーカラーは、「フォッシルブルー」(ネイビーとグレーの中間色)、「ダークプラム」(鮮やかな赤と沈んだ赤の中間色)、そして「モーブネオン」(夏と冬の狭間の色)である。これらのキーカラーを中心に、ブルーやブラウン、パープル、グリーンを基調としたパレットが展開され、強烈な色彩と柔らかいトーンが巧みに融合し、各色の豊かさが際立っている。ややグレーがかった色合いは、リサイクルや洗い加工、パティナ(古色)など、サステナブルな技術の進化を象徴している。また、ダークトーンは時間の経過とともに深みを増し、その魅力を一層引き立たせ続ける。 新たな段階に突入したサステナブルなファブリックを主軸に、そのアンチテーゼであるファンシーで装飾的なファブリックが創造性と技術の限界に挑戦するシーズンである。独自の大胆な芸術表現による、新しい美的感覚が生まれ、異なる世界観やコントラストを楽しむデザインが増えている。 トレーサブルなコットン シンプルさと品質が際立ち、メカニカルな仕上げが施されたコットンが多く見られる。現代的なエレガンスとミニマリズムを融合させた、贅沢な表現が目を引く。 高密度のしなやかなボリューム感 細番手糸による高密度と、厚みと柔軟性を備えたボリューム感が評価されている。カレンダー加工やラッカー加工、マーセライズ加工を施した、滑らかで光沢のあるエレガンスを体現するコットン生地に注目が集まっている。 日常の贅沢 日常を解放する時が来ていることが強調される。心地よいスウェットやカットソーは、ファッションにおいて手放しがたい存在であるが、これらがさらに洗練され、上質感と高機能性を併せ持つエコデザインに進化している。 英国の伝統美 伝統と自然に根ざしたデザイン。特にツイーディなコットンは、英国のルーツを再発見し、カントリー風の雰囲気を持ちながらも、柔らかな質感が魅力である。 光を纏ったテーラーリング テーラーリングでは、光の要素が取り入れられ、伝統的な仕立てに洗練が加わる。重厚で上品な光沢を持つ生地には、色の粒や斑点が散りばめられ、さりげない魅力を演出している。 洗練された動きのシルキーコットン シルキーなコットンは「動き」がテーマ。ドレープや優雅な曲線が新たな美しさを引き出している。肌に優しく、流れるような感触のジャージーやサテンが人気を集めており、その豊かな表現力が際立っている。 サステナブルなシャツ地の進化 シャツ地はサステナブルなドレスコードに置き換わり、シックなストライプやナチュラルなチェックなど、クラフトマンシップを重視したタイムレスな素材が採用されている。 エレガントなカジュアル カジュアル分野では、ウインターコットンを中心に、しなやかな風合いのコーデュロイやベルベットが復活している。またドリルやティッキング、モールスキンなどの堅牢な生地も、ワークウェアにふさわしい機能性とエレガントな感触を兼ね備えている。 時を重ねる美学 時の経過を反映したデザインが注目を集めている。スローライフを背景に、不完全さからインスパイアされたファブリックが登場。シワや傷跡が温かみを醸し出し、ダメージや修繕加工、ほつれを表現するカットヤーンが目を引く。特にシワ感が豊富で、冬ものにもシアサッカー効果が再導入されている。 贅沢なミニマリズム シンプルで幾何学的なラインが際立つ洗練された高品質な生地が特徴である。過剰な時代において、本質への回帰と簡素化、整理整頓が求められている。控えめで整然としたテキスタイル構造が表現され、細いラインや格子模様、チェッカーボードパターンがジャカード、ニット、レース、プリントで繊細に施されている。 透明感と繊細な立体美 透明感のある素材が進化し、より立体的で彫刻的な表現がされている。半透明の生地は新たな硬さを持ち、構築的なボリュームを生み出している。透明感は幾何学模様や繊細なラインで際立ち、控えめなデザインが意識されている。ジャカード、クロッケ、オーガンジー、レーシーニット、刺繍、レーザーカットなどが上品で贅沢な質感と高度な技術を示している。 ドレスコードの自由な組み合わせ 古着やアップサイクリングの影響で、ドレスコードの自由な組み合わせが進展している。女性的・男性的、世代を超えたスタイルの境界が打ち破られ、美的限界に挑戦する流れが顕著である。織物の伝統と革新的技術が融合し、色や技術、パターンが交錯することで、贅沢さを意識したテキスタイルが生き生きとした動きを見せている。 オーバーサイズのインパクトあるパターン オケージョン需要の回復に伴い、華やかな素材への関心が高まっている。ジャカードやプリントでは、オーバーサイズのモチーフにグラフィックコードが融合したインパクトのあるパターンが好評で、クラシックなチェックもXXLサイズに拡大され、ぼやけたような表現やカオス的な乱れが加わっている。フロック加工、刺繍、ニードルパンチなど、多彩な技法が取り入れられている。 動きのある光沢で贅沢を誇示 光沢は動きがあり流動的で、モアレや多色使いが特徴である。オーロラの光のような色合いが取り入れられ、刺繍やカットヤーン、フリンジのジャカードに金の装飾が施されている。贅沢さは控えめにされず、むしろその豪華さを誇示するかのような表現がされている。 プリントは自然と文化の交差点 自然や文化に着想を得たグラフィックが主流となり、対立する視点が交差する中で新たな創造性が生まれている。浮上する二つのテーマのうち、一つは植物をモチーフにした抽象的デザインである。暗闇から浮かび上がる幻想的な植物や、透明感のある柔らかな重ね描きが特徴で、自然を詩的かつ象徴的に表現している。一見穏やかに見えるモチーフだが、その中に予期しない深みが感じられる。もう一つのテーマは、伝統とフォークロアを融合させた多彩なデザインで、バロック的な豪華さやノスタルジックな花柄プリントが華やかさを演出している。 |