プレスリリース

 
2019年3月18日


2020年春夏コットン素材傾向

 PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより
 この2月初旬から中旬、2020年春夏に向けた見本市、プルミエール・ヴィジョン(PV)パリとミラノ・ウニカ(MU)が一巡した。
 ミラノ・ウニカの出展社は日本と韓国を加えた467社、来場社数は約6,000社で昨年並みと発表されている。一方PVパリは6つの見本市全体で世界50か国から1,782社(うち日本は55社)が出展し、昨年同期比3.3%増。来場者数は127か国から53,156名で、昨年同期比2.3%減となった。その要因はブレグジットの影響にあると指摘されている。実際、英国からの来場者は16%減少した。これを国別に見るとフランスがトップ、次いでイタリア、英国となっている。英国は減少したものの、前回同様第3位。続いてスペイン、トルコ、ドイツ、アメリカ、ベルギー、そして中国が第9位に上昇、日本は1,421人で第10位にランクインしている。


<全般傾向>

サステナビリティは最重要課題
 シーズンを追うごとに重みを増してきたサステナビリティ(持続可能性)。今期はPVパリもMUもこの言葉を最重要課題と位置付けていた。サステナブルな素材を求めるバイヤーも急増し、企業は生き残りをかけてこの課題に取組もうとしている。
 PVパリではトレンドのトップに“エコ・リスポンシビリティ(環境への責任)”を掲げた。メイン・ポスターには、長閑な明るい陽射しが降り注ぐ菜の花畑に、黒いオブジェがヌッと現れた風景が描かれている。
 PVアソシエート・ファッション・ディレクターのジュリー・グルー氏によると「これはファッション産業に対し、地球の“未来への責任”をイメージしている。シーズン全体のファッションが遊び心のある楽しいものへ傾く中で、地球にコミットする、つまり責任を持つことを伝えたいという思いが込められている」。異様な黒っぽい物体はふくらんだ大小のビニール袋を重ねてつくった“案山子(かかし)”のようにも見える。グルー氏はこれを「“人”もしくは“木”という人もいて、見え方は様々。両手を大きく広げて何かを集めているポーズ」という。
 いずれにしてもこのヴィジュアルは、エコとファッションが切っても切り離せない表裏一体の関係にあることを暗示しているように思われる。エコへの対応がもう不可欠なものになってきた。

サステナブルな“プロセスの革新”
 一方、MUは、“サステナビリティの追求”をコンセプトに今期3回目を迎えたこともあり、PVパリとは少し異なる視点でエコをとらえていた。それはサステナブルな“プロセスの革新”である。
 エルコレ・ポッド・ポワーラMU会長を中心に行われたシンポジウムでは、この“プロセスの革新”を焦点に、製品の持続可能性を追求する段階から、より発展した経営プロセスの持続可能性という総合的な追求へと舵を切ることの重要性が議論された。   
 約120社700点のサンプルが展示された“サステナビリティ・プロジェクト”エリアでは、この動きと連動するように、長期的な目標や改良への取り組み、モニタリングやレポート計画の設定、持続可能な統合的経営システムの採用を進めている企業にスポットが当てられた。今後は原料から製品に至るまで生産工程や透明な追跡可能性、労働環境などすべてのプロセスがますます重要になってくる。
 サステナビリティは、オーガニックコットンとかリサイクル素材の商品だからという一部分だけではなく、全体を考慮すべきときが来ている。サステナブルな企業活動とは何か、改めて考え直す必要があるだろう。

広がるデジタルプラットフォーム
 デジタルでの情報発信や商取引が広がりつつある。PVパリのB to B(企業間取引) デジタルプラットフォーム「PVマーケットプレイス」は当初、PVファブリックのみだったが、今期はPVレザーもスタート、次期9月展からはPVアクセサリー(服飾資材)も入ってくるという。
 WEBサイトでは、この半年でPVファブリックの約750社がこのサービスに登録。サンプルの受注が可能な有料のアクティブショップには、その内150社が参加、その数は今後ますます増える見込みだ。
 MUも今期“ e-milanounica”を始動している。これはeコマースではないが、情報ツールとしてバイヤーが事前に生地をチェックできるメリットがある。
 「生地は触らないと良さが伝わらない」、この言葉にこだわる向きもあるが、多様化する買い方を鑑み、認識を新たに導入する企業が増えている。出展社にとって、見本市への出展を補完する新しい営業ツールとなっていくことは間違いなさそうである。

色と光りでファッションを楽しむ
 2020年春夏はサステナビリティへのコミットとともに、ファッションを自由に楽しむ季節。一人ひとりの個性を尊重し、多様性や差異化を重視、ときには挑発的にいつもとは違う自分を演出して見せたりもする。
 そんなファッションの楽しみを象徴していたのが色と光り。カラーは全体に明るく高彩度で暖色系が主調になっている。とくにPVパリで目立ったのがインパクトの強い“赤”で、会場の随所を彩るシーズンのキー・カラーとなっていた。
 この鮮烈な赤は、ピンクやオレンジといったビタミンカラーとともに、夏を楽しく盛り上げることになりそう。なおここで忘れてはいけないのが白。白はパワフルなサーチライトの役割を果たしている。  なおもう一つ、今季欠かせないのが光沢で、目新しいのが色づいた光り。とくに視角により色が変化するオーロラやホログラムのような光りが注目される。

「ミュージック・メニュー」
 MUではファッションの楽しみを「ミュージック・メニュー」のコンセプトで発信している。メッセージは、“心地よいミュージックと美味しい食事”で人生を楽しく!というもので、これまでない快楽主義的なテーマになっている。
 MUアーティスティック・ディレクターのステファノ・ファッダ氏は「春夏という季節もあって楽しい気分を提案したいと思った。閃いたのはミュージック。未来の大都会という設定で幸せなひとときを思い描いてみた。浮かび上がってきたのが、リズムと味覚が溶け合うおもてなしのシーン。そこで料理という幾千年もの歴史をもつ食文化と新しい世代の音楽を掛け合わせれば、これまでに見たことがない新鮮なトレンドをつくることができると考えた」という。
 トレンドエリアでは、音楽から着想した料理のイメージをヒントに、伝統と実験、過去と未来を融合させ対応重層的な3つのストーリーが提案され、人気を集めていた。そのいずれにも100年後を連想させる名称が付けられている。未来を楽しめるものにしたいという、ファッダ氏の想いが伝わって来るような印象的な構成だった。
・2080 クスクス・ラップ ―― 80年代のラップミュージックと北アフリカ料理のクスクスの豊かさを結びつけたもの。
・2070 ファンキー・タブーリ ―― 70年代のディスコミュージックとレバノンのもてなし料理からの発想。
・2050 ボンボン・ジャズ ―― 50年代のジャズクラブとフランスのボンボン菓子からのアイデア。

コットンは楽しさの主役
 ちょっとお堅い感じのサステナビリティと陽気な感動が渦巻く今シーズン。引き続き主役の座を堅持しているのがコットンである。サステナブルな素材開発に欠かせないと認知されていることもあり、コットンは社会的責任と楽しいユーモアで感性に訴えかけるのに最適とみられている。
 また今季は自由に工夫を凝らすシーズンでもある。ここでは「静」から「動」へ、過去の重みから自由になり、未来を先取りする新たなノーハウが重視される。コットンの持つ遊び心やファンタジーはこれまでにも増して重要となり、ちょっとした違いを楽しんだり、大胆に華やかさを追求したり、既存のものをディスラプト(創造的破壊)したり。
さらなる軽量化や、これまでの常識をくつがえす感触にも目が向けられ、過去の通例の反復や復刻からは遠ざかる。遠慮がちではない、主張のあるニュアンスをつくり出すのにもコットンが活躍している。
 その新たなキーワードとして浮上しているのが「軽さ」と「動き」と「インパクト」。
「軽さ」は、重みを感じさせないぐらい軽く、薄く、しかもシルエットをきちんと出せるしっかりした感覚のもの。着る人にやさしい心地よい軽さは今やあらゆる素材に欠かせない。光沢のある透け感やメッシュ、サッカーの凹凸のある表面感にも注目。
「動き」は、スポーツの機能性を取り入れたエレガントな素材が中心。流動感のある超強撚や体の動きに寄りそう伸縮性のあるものが選ばれている。コットンはパフォーマンス性を高めるため、ハイブリッドされたものが多い。
「インパクト」は、視覚効果のあるもので、プリントや先染め、ジャカードの豊かな色彩や大胆な意匠も特徴。大きい花やアフリカンなどエスニック調のパターン、マドラス、マルチカラーも陽気なムードを盛り上げている。


<コットン素材のポイント>

1.  超軽量の透け感
 透け感のあるコットンが大人気。それも超軽量で見た目以上に軽い。コットンボイルや、フィルターもしくはトレーシングペーパーのような透明感、カットヤーンやカットジャカード、シアなニット、チュールやレース、それにメッシュ。抜け殻さながらの素材や伸縮性のある半透明も。重ね合わせて色効果を楽しむのが一種のブームのようになっている。

2. 起伏と震える表面感
 軽やかな薄地は繊細に揺らめき波打つ表面を演出する。それはちょっとした空気の流れにも敏感に反応したかのように。シアサッカーのざわめくシボシボやリップル、塩縮、エンボス加工、またシワ加工、わざとアイロンをかけない効果。さらにはっきりとした起伏を見せるコード織やピケ、3D構造の微細な空洞や窪みのある組織、ハニカムなど。

3. しなやかな流動感 
 しなやかで軽い、するりと手から抜け落ちるようななめらかな流動感のあるシルキーな素材が好評を得ている。肌にまとわりつかずに寄り添う、バネのように弾む、活き活きとした質感はフェミニンにもマスキュリンにも可能性が広がる。超強撚のコットンクレープ、混紡・複合で、とくにストレッチが着実に成長し、新たなテーラリング分野を開拓している。

4. 光りの角度や動きで変わる上品な光沢
 今シーズンは、軽い手触りの素材で光りの角度や動きで見え方が変わる、上品な光沢に興味が集まっている。メタリックは自動車の車体のイメージを離れてより繊細なニュアンスに変化、金属の粉をまぶしたような優美な表面感のものや、糸の間からちらちらと顔を出す控えめな輝き、光沢/艶消しの部分的な箔加工、真珠や虹、あるいはオーロラを思わせるラメやコーティング、ラミネート加工も活躍。サテンは最上質のしっとりとした光沢を放つものへ。

5. ドライでクリーンなナチュラル
 コットンは自然素材にみる素朴なラスティックというステレオタイプなイメージを完全に払拭。洗練されたドライなタッチのクリーンなナチュラル感覚へ移行している。繊細なスラブヤーンが走る軽やかな薄地から、不規則な糸の持ち味を生かしたリネンタイプ、デリケートな凹凸を見せるツィーディな質感、さらに乾燥したラフィア調のものまで。乾いた涼感とハリが同居する不思議な手触りにも驚かされる。 

6. マドラス・インスピレーション
 楽しい季節の到来で、カラフルな先染めが人気を集めている。とくにシャツ地にギンガムなどのチェックが多く、中でも目立つのがマドラスチェックにインスパイアされた大柄のチェック。繊細な手紡ぎ風の糸使い、太陽の光を思わせるカラー、赤やオレンジ、イエローなどの明るい色合い、カラーミックスも特徴。

7. 陽気なマルチカラー・ストライプ  
 ストライプやボーダーへの関心も続いている。とはいえ興味の対象はマリーンストライプやクラブ、デッキチェアといったクラシックなものから、よりインパクトの強い陽気なマルチカラー・ストライプへ、それもリピートの大きいものへ移っている。イレギュラーな糸使いやプリントとの組み合わせによる、動きのあるジオメトリックなデザインも目に付く。

8. トーン・オン・トーンのインディゴデニム
 デニムはインディゴブルーで濃淡を演出したトーン・オン・トーンが好まれている。セルビッジデニムもそのヴィンテージな質感から、味わいのある色落ちを楽しめるとあって人気が高い。ファンシーなデニムも増え、スラブ糸など意匠糸使いのものやプリント、先染め、ジャカードも。とくに爬虫類レザーに触発されたジャカードがバイヤーの注意を引いていた。

9. カジュアル・シックなスウェット
 多数の提案が見られるカットソーニット、中でも人気は高級感を増したカジュアル・シックなスウェットである。落ち感のあるドレープの質感や、逆に布帛もしくは不織布のようなコンパクトな編地のもの。ハリを持たせた天竺も好評。サッカー風や楊柳風などのレリーフ組織、光沢加工やラメ使いも。またあらゆるアイテムで色のきれいなものが多くなっている。

10. インパクトのあるパターンやプリント
 今季のキーワードの一つが“インパクト”。 プリントやジャカード、レースなどの装飾的素材は、これを受けて色彩や意匠が過剰といえるほどに溢れ返っていた。
 中でももっとも多いのは、自然界にインスパイアされたデザイン。花柄を中心に、そのアーカイブから発想したスタイライズド・フラワーなど。葉の模様への関心も高い。花は大柄でカラフル、おなじみのパンジー、アネモネ、ヒナギクなどの花束からフラットでポップな花まで。ときに大胆なブラッシュ・ストロークで描かれたものも。蛍光色を取り入れた人工的な花柄ジャカードも見られる。
 またエスニック調のジオメトリック柄も浮上。とくにアフリカン・プリミティブ、ブードゥー教にみられるようなモチーフをモダンにアレンジしたものが目新しい。キリンやシマウマ、オウムといった動物のモチーフが目に付くのも今シーズンの特徴。
もう一つ楽しいムードに欠かせないのが、トロピカルやハワイアン。色とりどりのエキゾチックな花や緑豊かなヤシの木の風景柄が、トーンを抑えたノスタルジックなパレットで散見される。
さらに見逃せないのが、アンチ・グラフィックなアブストラクト。輪郭がはっきりしない、やわらかなぼかし柄やグラデーション、タイダイや水彩風の滲んだ花など。
 (取材/文:一般財団法人日本綿業振興会ファッション・ディレクター 柳原 美紗子)


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