プレスリリース

 
2021年10月11日

2022/23秋冬コットン素材傾向

          
PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより
 22/23年秋冬国際素材見本市、プルミエール・ヴィジョン(PV)パリは、9月21~23日にパリ・ノール見本市会場でリアル展、9月20~24日にデジタル展のハイブリッド方式で開催された。リアル展には903社が出展し、17,100名が来場した。またリアルとデジタルを合わせた来場者数は62,800名だった。マーケットプレイスPVではショップページのビュー数79,000、素材ページのビュー数124,000以上、 デジタル・トークスには4,000名が視聴したと発表されている。
 一方、ミラノウニカは7月6〜7日、フィエラミラノにてリアル展を開催。出展社数は270社で、来場社数は3,100社だった。
 両見本市とも再会を喜ぶ明るい雰囲気の中、未来への再生を印象づけていた。

<全般傾向>
合言葉は「結集する」
 今回PVは「結集する」を合言葉に、初のハイブリッドで開催された。ジル・ラスボルドPVゼネラルマネジャーは「デジタルの力がリアルを支え、ゆるぎない国際的なイベントとなった」と語っている。様々な部門の結束と知識や経験の組み合わせが提唱され、コラボレーションが進展し絆を深めた。
 多様なエネルギーが集合した今会期、22/23年秋冬はカラーや素材にバイタリティが吹き込まれ、ファッションはその力を確信するシーズンとなる。

コットンはオールマイティ!
 今季はシンプルな合理性とファンタジックな装飾性が追求されている。この両者ともに必要不可欠な素材がコットンである。前者は丈夫で打ち込みのよいコンパクトから、安心感があって居心地がよく、包み込むようなしなやかさのあるものまで、また後者はクレイジーなほどに楽しいファンタジーを表現するテキスタイルで、インテリアのようなジャカードから大胆なモダンアートのパターン、過剰なほどに輝く金色のものまでコットンが使われている。どの素材とも相性のよいコットンはまさにオールマイティ!

360度エコ・マインドなシーズン 
 環境への配慮と持続可能な発展は無視することができない必須要件。自然生まれ、自然育ちの植物繊維、コットンが、重要な役割を演じていることは言うまでもない。
 特に今季は360度、どの角度からみてもエコ・マインドであることが求められている。イノベーションというとかつては原材料に焦点が当てられていたが、現在では製品のライフサイクル全体に適用されるようになっている。生産工程の各段階を詳細に検討し、最も影響の少ないソリューションを見つけ出そうとしている。
 循環型、資源、水、エネルギーの節約、無害なプロセス、生分解性など、メニューには様々なエコ・インジェニュイティ(創意工夫や発明能力)が盛り込まれていることも要チェック。
  例えばリサイクルコットンの拡大。EUでは最先端技術を共同で活用し、衣料品生産のための完全な循環型モデルを実証することを目的に、昨年「ニューコットンプロジェクト」が発足するなど、動きが広がっている。
 また100%の価値を見直す流れも強まっている。これにより好ましいハイブリッドが実現され、豊かなレパートリーを作ることができる。さらに残渣のセルロースを使ったビスコースの開発など、コットンは廃棄されても有用で、メタモルフォーゼされる技術が進んでいる。

<ファブリック・ハイライト>
永遠の豊かさ  
 今シーズン、素材は永遠の豊かさを求めて、投資の対象となるようなラグジュアリーと結びつく。新しさが本物の持つ個性や、豪華でも目立たない控えめなエレガンスに対応する季節が来ている。
 ここでは一見目に見えない高品質のファブリックに光が当てられ、高級感のあるコットンが活躍する。ハンドルの感覚的な魅力から、技術的なパフォーマンス機能、持続可能なイノベーションまで、素材の美しさと専門家のノウハウにより完璧に探求し尽くされたものに目が向けられる。

フリー・ハイブリッド
 ハイブリッドというとリアルとデジタルなど、様々な要素の混在・融合が思い浮かぶが、今季の焦点は、新しい意味を持つ快適さである。それはフォーマルとインフォーマルの垣根を超える動きと結びつき、カジュアルウェアはますます洗練されてエレガントに、ドレッシーなルックはより現代的なリラックスを求める方向へと向かう。コットンのシャツ地がジャケットに、ニットやデニムがテーラードスーツに、さらにシルキーなファブリックやレースがアウトドアスポーツに、といった具合に。この思いがけないハイブリッドにより素材ミックスが引き起こされ、コットンがその軸となっていることに注目したい。。

パワフルなファンタジー 
 22/23年秋冬は、大胆な発想でパワフルなファンタジーの世界に飛び込むシーズン。インパクトのあるクリエーションがバイタリティあふれるカラーで提案される。ポップなグラフィックやゴージャスな花、アニマル、過剰とも思える幾何学的な表現、また煌めくメタリックやスパンコールもふんだんに。さらにフリンジや思わず触りたくなるような触覚的な効果も。
 あらゆる装飾のノウハウを駆使してチャレンジする季節が到来している。

<カラー>
 人を惹きつけ、感動させるために、重要な役割を果たしているのがビジュアルとカラー。今季は素直に色の持つエネルギーとパワーを支持するカラーパレットが発表されている。
 PVの提案色は27色。一つひとつの色にはリズミカルな動きがつけられ、鼓動する“ハート”を思わせるレイアウトで配置されている。特徴は適度な光沢を伴う、弾むようなビビッドカラー、コントラストを奏でるリズム、たっぷりと色素を詰め込んだ色調。
  注目のカラーはまばゆいオレンジ系。冬にビタミンを注入するとともに意匠を刺激し、視線を引き寄せ、シルエットを強調するのに欠かせない色となる。またブラウンが黒に替わるベースカラーとして浮上する。

<コットン素材のポイント>
◇シックで端正  
 シックで端正な感覚のコットンに目が向けられている。緻密で滑らかな表面感、しっかりした手持ち感があってしなやか。とくに目立つのはツイル、ギャバジンや綾目の立ったトリコチン、ダイアゴナル。
 シンプルな外見だが、伸縮性や撥水、速乾、軽量など目に見えない機能で刷新されている。サステナブルなコットンやリサイクルコットン、水の消費への配慮、環境に負荷を与えない仕上げ加工など、差別化を生み出す内側が重要。

◇軽く暖かいウインターコットン
 寒さから身を守り、外にいても家にいるような感覚を味わえる、軽く暖かいウインターコットンが充実。ジムウェアへの提案も強化される。
 ソフトな起毛やスエード調、裏起毛の二重織、ふくれジャカードやパターンキルティング。また中畝~広畝コーデュロイやベルベットも復活。長い毛足や繭のような厚地のものも。ニットも裏毛や裏パイル、段ボール、フリース、ダブルジャージー、ブークレニットのようなテリークロス。さらにアニマルファーのようなパイルも。

◇輝くゴールド・メタリック 
 光輝く効果は全開。反射光はプリズムのように変化に富み、ときにアグレッシブと思われるほどに高められる。注目はゴールド。続いてシルバーやコパー、カラーメタリック。流動感のあるクレープやジャージー、ファンシージャカードに、ラメ糸を介して、あるいはコーティングやラッカー、ラミネート加工が施されて、冷たい光りを放つ。グラマラスでリキッドな光沢は、トップスやニットドレスを立体的に見せ、アウタースポーツを華やかに見せる。とくにダウンはより楽しいものになって、ゲレンデや街を闊歩するだろう。。

◇多面的なシャツ地
 シャツ地は間口広く、綿100%クラシックからファッショナブルなものまで多面的。温かい感触のコットンチェックはジャケット向けにしっかりとした綾組織に織られていたり、フェミニンに流動感のあるシルキーなタッチを持たせたり、セルロース系とブレンドしてドレスへの道を開いたり。
 エコへの新提案も見られ、漂白しない生成りの少し退色したよう色効果のものや、色付き綿花による無染色の先染めも浮上。タータンも地色をベージュやカラーミックスにして和らいだ表情に。  

◇デニム「北欧の自然」がテーマ  
 デニムは「北欧の自然」をテーマに、雪景色の中を散策したり、凍りついた自然に思いを馳せたり、星空の下で夜を過ごしたりして季節を表現する。流氷を思わせるワッシャーや、レーザー加工で氷にクラックを入れたような表面感、うねる波や海図を思わせるジャカード。またフローズンした花や霜の降りたハーブのモチーフ。夜空に瞬く星をラメで表したダークなデニムも。
 ストレッチなどの実用性、環境への配慮を再考する流れも活発化。天然顔料使いのピグメント加工で色素をランダムに洗い流したようなオーバーダイも台頭。また防寒を意識したデニムでは裏起毛を始めフロッキー、ベルベットのような質感から、解れた糸、浮いた糸でボサボサの髪の毛に触発されたような乱れた手触りのものまで。

◇ニットか織物か?
 ニットが進化し、布帛に接近。外見上、ニットか織物か?区別のつかないものが登場し、ニットと織物の市場間競争が始まっている。
 ニットの需要を支えているのはスポーツウェアで、そのシェアは9割に上る。このニットがシティスーツやドレスシャツに進出。テーラード技術を保持しながら、シルエット全体にニットを取り入れるブランドも見られる。
 織物も反撃に出ている。ストレッチ機能を高めたり、糸を工夫したり、ニットのような布帛を開発、高性能でありながら、セーターのように簡単に着こなせるストレスを感じさせないものを生み出している。織物は緻密で同じ重さでもニットの10倍の強度があり、スポーツ分野に向いているともいわれる。
 ニットと織物、それぞれどこまで領域を拡大するか興味深い。

◇アートのアーカイブを探求するプリント
 モダンアートの美術館にはテキスタイルデザインのアイデアが詰まっている。今季はその無限のアーカイブを探求するシーズン。モチーフは時にフレームからはみ出すほど極端に拡大されたり、壁紙のように地肌をほとんど残さずに埋め尽くされていたりする。
 スケールの大きいものではアンニ・アルバースやヴァザルリなどの幾何学的な抽象画に着想したもの、また小柄ではリズミカルな反復を繰り返すネクタイ風の柄など。うねる曲線や渦巻のモチーフも多く、ソフトなグラフィックで60年代やサイケデリックを想起させるものが見られる。
 花は100%装飾的に表現され、インド更紗や英国のアール・デコを思わせるパターンが目に付く。さらに東欧や中欧のスカーフ柄に見られるようなパルメットやロゼ ット、フォークロア調の様式化された花のバリエーション。イカット風やオリエンタルラグのデザインをピクセル化したものへの関心も。 

 (取材/文:一般財団法人日本綿業振興会 ファッション・ディレクター 柳原 美紗子)


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