プレスリリース

 
2022年4月4日


2023年春夏コットン素材傾向

 PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより
 2023年春夏向けパリとミラノの国際素材見本市がこの2月上旬、相次いで開催された。両見本市ともアジア諸国の存在を欠いたものの、業界の再開を示し、明日のファッションの課題に応え続けるべく、会期を成功させた。


<全般傾向>

クリエイティブなエコ志向
 ここ数年間、PVパリとMUが推進しているコンセプトがサステナビリティである。環境への配慮を目指す製品・アイデア開発は、留まることを知らない勢いで進化している。2023年春夏は、クリエイティブでありながらエコ・レスポンシビリティを志向する動きが浸透し、見本市全体をカバーする大きな潮流となっている。
 これを踏まえ、PVパリのサステナビリティに特化したフォーラム「Do it sustainably」では、サステナブルな植物繊維、コットンに大きな目が注がれ、リサイクルや生分解性など、シーズンのイノベイティブなエコ素材が紹介された。
 原材料から製造過程に至るまで、エコおよび倫理を志向する流れは、広い意味でのファッション産業の創造性と創意工夫の証と受け止められている。環境と社会への責任を意識した素材開発や、環境へのインパクトを減らした製造ソリューションへの投資に力を入れる業界の動きがこれまで以上に注視される。

エコと「目新しい楽しさ」の対話
 前回9月展はロックダウン後の解放感からファンタジーへの欲求に目覚めたシーズンだった。今回はそこにサステナビリティへの大きなうねりが加わった。2023年春夏は理性的なエコ・レスポンシビリティとファッションの持つ「目新しい楽しさ」がバランスを取りながら対話するシーズンになる。
 エコとファンタジーというと相対する概念と思われがちだが、今やあらゆるものが相互に影響し合う複雑な世界に突入している。リアルとバーチャル、ナチュラルとアーティフィシャル、スローとファストといった二元的な概念は、対立ではなく共存であり、それ以上に結びつき対話している。
 流行を追うファッションの楽しみと社会的責任を意識した製品開発を対峙させず、この二つの間に橋を架けて均衡を図る。これにより感動、自由な発想と、強いエコ意識に繋がりを生み出し、意表をつくカラーやデザインを追求して製品の既成概念を“ひっくり返す” ことがクリエーションを豊かにする。
 製品差別化のファクターは、環境に配慮しつつ、外見の美しさや手触りで完璧を追求するクリエイティビティであり、視覚に瞬時に訴える力である。

自然とデジタルへ誘うカラー
 2023年春夏カラーは、自然の深みとデジタルの広大な世界へと誘うレンジ。力強く深みのある色、活力と勢いのある色、繊細なピグメントの色合いなど、様々なタイプのトーンが共存し、相互にリンクして、ジェンダーの流動性を促し、色彩の横断的な使用を容易にしている。

 PVのカラーは次の3つのラインで展開されている。
①「ストロング&ルーツ」―大地と植物界からインスパイアされた堅実で地に根を下ろしたカラー。厚みのある肥沃な色に砂を思わせる乾いたカラーを組み合わせて、有機的な色彩世界を構成している。
②「センシティブ・シェード」―ブルーからピンクへと滑らかに変化する感受性豊かなカラーパレットで、暖色と寒色の間を揺れ動くやわらかなハーモニー。
③「ヴィム&ヴィガー」―エネルギッシュで弾むようなトニックカラーで、デジタル世界の速度と光りを表現する。
 また注目色となるのは3色。 
【ホワイト】漂白など化学物質使用による環境への悪影響という問題がつきまとうが、現在では遜色のないピュアホワイトを得られる代替技術が存在する。今季はテクスチャーや感触に触れて、実体感のある素材の白とデジタル機器のモニターが発する輝かしいホワイトの双方が焦点となる。
【ブラック】最も多く使われているカラーであり、海藻などの天然染料の利用が進み、ウルトラダークな黒を実現するサステナブルな代替ソリューションが登場している。
【ブルー】ピンクと並ぶ人気色で、クラシックなマリンブルーに限定されない様々なニュアンスのブルーが台頭。新たなデュオとしてグリーンとブルーが涼しげに、また穏やかな強さを持つツートーンカラーで浮上している。


<ファブリック・ハイライト>

● サステナビリティ   
 今シーズンの主役は、多様性とトレーサビリティ。環境に配慮した素材や工程が急テンポで広がり、原材料から最終加工に至るまで、地球上のあらゆる経路がたどられて、その影響度が分析されている。サステナブルなコットンやリサイクル素材、植物性タンニンなめし革といった定番の素材にとどまらず、環境負荷低減のための資源や技術が持つ様々なクオリティが提案されている。

● 植物繊維の優越性  
 コットンを中心とした植物繊維が表現する、きちんとした上質感や清楚さ、完璧な滑らかさがクローズアップされる。手に触れて実感できる、その自然な風合いに目が注がれる。秀でたホールド感を実現するために、打ち込み密度は緻密に計算されている。ニートなシャツ地に注目。またヴィンテージ風のしなやかで美しいレディススーツ地向け生地も。

勢いを増すタクタイル(触わって感じられる感覚)    
 テクスチャード加工や凹凸効果のある素材。リップルや塩縮、サッカー調の繊細な感触。また見た目は柔らかく、弾むようなバネ性のある表面感、ペーパータッチ、シワづけたクラフトペーパーやトレーシングペーパー風のものも。  
 さらにぽってりとしたふくらみのあるジャカードや、シルキーなバスケット織のようなキルティング効果、立体感を強調した幾何学モチーフのエンボス加工など。

● センシティブな流動性   
 シルクパウダーのように滑らかでフリュイドなクレーブデシンを思わせる風合いや、より繊細で流れるようなドレープ性のあるシルキーなコットンサテン。ベルベットのような、スベスベした落ち感の不思議な感触のものも。色彩はくすみがないというよりはむしろ華やかで、輝くラメ使いや、水が反射して光っているような濡れた光沢感のものも。

● 牧歌調ファンタジー 
 23年春夏の装飾に見られる、不思議なパラドックス! 一つはひなびた地方への憧れ、田舎の家にありそうなキッチンリネン、民芸品のアーカイブ、野の花のモチーフ、クロスステッチ刺繍、かぎ針編み風など、カントリースピリット。その一方で、蛍光ペンやアーティフィシャルなものを好んで使うテーマもある。ケミカルな光りを放つツィードや、スポーツやゲームの世界にありそうなジャカードやレース、刺繍など。

● シャーティング(シャツ地)  
 メインはストライプ。性別にとらわれない、少しフェミニンな雰囲気を醸し出すクラブストライプや大胆な太目のストライプ、華やかなリボンストライプ、美しいハーモニーの幅広いバヤデール(多色の横縞)まで、様々なストライプが登場する
 またソフトに震える表面感のシャツ・ブラウス地も多い。クレープボイルや繊細なエアリー、透かし織り、軽やかに風をはらむシアサッカーやクレポン、からみ織など。洗い晒したナチュラルや白っぽいパステル、パリッとした白のドレスシャツも。

● マスキュリン・コート&ジャケット  
 フレッシュな清涼感が前面にプッシュされる。陽晒した色彩、風通しのよい軽さ、ドライなタッチなど、豊かさは糸やテクスチャーの細部に隠されている。
 まず欠かせないのがチェック。とくに目新しいのがポップ感覚の、色鮮やかな大柄のチェック。またツイードはユニセックスで用いられ、メンズ向けにファンタジー性の高いテクニカラーのツイードが登場している。
 さらにリネン調のナチュラルなコットンが人気。端正で滑らかな表面感の中に、自然の趣を感じさせる表情のある風合いで。

● デニム・ファンタジー  
 オフビートで楽観的、多面的なファンタジーが台頭している。手仕事による仕上げや、儚げな色から大げさな色まで、様々なカラーバリエーションとアクセサリーで、今シーズンのデニムはより個性的に演出される。
 主役はカラーで、虹のように、またパワフルでダイナミックな色彩で、その強さと活力を際立たせている。フューシャピンクのオーバーダイでガーリーに見せたり、明るいグリーンやイエロー、蛍光色でアクセントをつけたり、ぼやけた形は抽象的な水彩画のパターンを模していたり。
 タイ&ダイのデザインも再構築。レーザープリントによるよりソフトなファンタジーや、オゾンウォッシュを施した儚げな波のようなイメージなど。
 アップサイクリングや、端切れなどデニムのパッチワークで、独自のビジュアルを訴求する楽しいものも見られる。

● 用途を広げるニット 
 数シーズン前から、ニットと織物はそのアイデンティティを入れ替えている。ニットはよりしっかりと安定的に、織物はより柔軟に変化して、潜在的な用途を広げている。
 今季特に目立つのは、上品で滑らかな手触りを実現した流動感のあるニット。例えばコットン・フリースなど、従来のイメージを変えるものが現れている。 
 またメッシュやネットなどの新しい透かし編み。アイレット刺繍のような透かし模様のジャカード、さらにプリーツのように開くことができるエアリーなリブなど、機能的であると同時に装飾的でもあるニットが多くなっている。

● プリント 
 グラフィックな壁紙やフラットな花、モダンな幾何学模様、ブロック、スクリーンプリント、シンプルなモチーフなど、60年代の写真集に真っ向から飛び込むようなポップデザイン。また軽快なコットン地に広がる花畑の模様、風に揺れる野草や雑草、繊細なプルメチスの花。さらにシマウマや遺伝子組み換えのヒョウ、巨大な蝶々、人工的な色彩のサイケデリックなカモフラージュなど、トリッピーなアニマルプリントはメタバースのサファリのよう。現実から逃避し、魔法のメガネで見て楽しむプリントが登場している。

 (取材/文:一般財団法人日本綿業振興会ファッション・ディレクター 柳原 美紗子)


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