プレスリリース

 
2022年9月28日

2023/24秋冬コットン素材傾向

          
PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより
 2023/24秋冬プルミエール・ヴィジョン(PV)パリは、従来の9月から2ヵ月前倒しされ、7月上旬、パリ・ノール見本市会場にて開催された。出展社数は44か国1,190社で、前年9月比32%増。来場者数は118か国23,377名で、前年比37%に増加した。ミラノウニカ(MU)は、PVパリ終了後の翌週にミラノ・ローで開催され、出展社数は445社でコロナ禍前の8割強まで戻り、来場者も企業数で4,052社と前年7月比31%増。
 両見本市とも欧米中心に多数の有力バイヤーが参加し、日本や韓国からの来場も増えて東アジア市場にも明るい兆しが見られた。原料不足やエネルギー価格高騰が深刻な問題となる中、繊維産業の力強い回復が示唆される会期となった。


<全般傾向>
 今シーズン、押さえておきたいポイントは「サステナビリティ」と「クリエイティビティ」である。バイヤーのサステナビリティ重視の傾向は高まる一方であり、ファッションテキスタイルはこれに応えるためにクリエイティビティへのアプローチをアップデートしている。求められたのはいつまでも愛着をもって着用できるファッションである。2023/24秋冬は一過性ではないトレンドを超えたシーズンとなる。

サステナブルなコットン
 サステナビリティは良識と表裏一体のコンセプトであり、環境への責任と、着心地の良さや美しさとのバランスのとれたクオリティ、すなわち天然繊維に焦点が当てられている。中でも引き続き関心の目が向けられているのがサステナブルなコットンである。地球環境や人類への負荷が少なく、良質で長持ちする。しかも季節を問わず消費意欲をかき立てるファッションをつくり出すことができるとあって、今シーズンもファッションの鍵を握る素材となっている。
 PVパリの新設トレンドエリア「エコ・イノベーション・フォーラム」では、主軸の一つがコットン製品だった。社会的責任やトレーサビリティ、ライフスパン、環境に配慮した製法に応える厳選された展示に、連日大きな人だかりができていた。
 MUのトレンドエリアもサステナブル素材で構成されていた。テーマは「シーズンレス」で、冬場でも使える様々な重さのコットンが活躍するシーズンが予見されている。

違いをつくるクリエイティビティ
 クリエイティビティとサステナビリティは対立する概念ではない。サステナビリティを背景に、違いをつくるクリエイティブな製品を求めるシーズンが来ている。
 人が他人と同じであることを嫌い、人目を惹きたいと考えるのは自然なことである。サステナブルな社会への移行を図りながら、ユニークでありたい、個性を編み出したいという思いを叶えるファッションが浮上する。いつまでも大事にしたくなるものやリサイクルできるものだけではない、アフターコロナの楽しい気分に乗った大胆な遊び心のあるデザインも戻って来る。コットンはそうした気分にコミットする素材でもある。

<ファブリック・ハイライト>
 今シーズンのコットンファブリックのハイライトとして、次の3つの方向性が挙げられる。

「エッセンシャル」の再解釈
 触感、もしくは視覚に訴える価値を付与することにより、カジュアル市場やテーラード市場向けに必要不可欠な「エッセンシャル」のコンセプトを見直し、再解釈する方向。
 顕著なのがクラシカルなコットンで、誰もが知っている確かな価値のあるものを追求するシーズンに欠かせない素材である。ここでは差異化を図りたい願望を反映するように、単なるベーシックとの違いを強調した、パワフルな創造力を発揮したものが提案されている。タイムレスな無地素材がより複雑な織り組織へバージョンアップされたり、見た目と異なる思いがけない感触に仕上げられていたり。またかつて流行った既視感のある素材、例えばリフレッシュされたピーチスキンなどへの関心も。アイコニックなモチーフも一捻りされて、3D効果や変わり柄に、通常とは異なる配色で再演出される。主役の座に躍り出ているのが千鳥格子とシェパードチェックで、他のチェックやストライプを凌駕する勢いが見られる。 

節度ある豊かさ
 「抑制的でリッチ」なテーマで、過剰さが目立った数シーズンを経て、「シンプル」がキーワードになりつつある。厳格と呼べるほど簡素に見えて、実はリッチで内側からにじみ出る豊かなクオリティを持っている。クオリティという概念は進化していて、ここで言うクオリティとは耐久性のあるサステナブルな品質を指していることに注意。
 要は、外見が質素なラグジュアリーを目指す方向で、抑制的であるくせに、人目を惹きつけて離さない。その秘密は、高級綿100%使いなど高品質素材による織り技術と糸にあることに注目したい。

例外的な不完全
 本物に敬意を払い、粗削りの美を賞賛する方向。追求されるのはナチュラルな自然素材で、コットンならではの高貴な雰囲気を持つグランジ効果である。エレガントに粗削りで巧みなさじ加減による不完全性が大きな魅力となっている。
 加工される前の自然な状態の素材の姿に目が向けられ、飾りのない素朴なテイストが称えられる。滑らかな表面感に替わって、心地よい柔らかさを伴う起伏のある生地や太いファンシーヤーン使いのものも目立つ。

<カラー>
 キーカラーとなったのは「カラードグレー」。ほんのり緑やピンク味を帯びたグレー、光沢をたたえたシルバーがシーズンを彩る。
 PVファッションコーディネーターのエルザ・メイ氏は、グレーをクローズアップした理由について「色味のあるグレーは派手過ぎず目立ちすぎることがない、洗練された上品なカラー。とくにシルバーは落ち着きのある静けさと華やかに着飾る喜びが共存する注目のカラー」と語っている。
 実際、グレーはどんな色にも馴染む基本色である。素材そのものが持つ質感やテクニックの妙を際立たせるのに重要な色であり、環境への責任ある素材が求められる今季はとくに、シンプルでクラシカルな生地の付加価値を高めることになる。
 PVの提案色(26色)は、各々個性的な特徴が際立つ3つのカラーグループで構成されている。1つは美食系の陽気でリッチなカラー、2つ目はグレーを中心とした穏やかなニュートラルカラー、最後はリズミカルな、もしくは退廃的なコントラストを生み出すダーク/ペールにブライトが交錯する色合いである。
 全体に色彩の濃淡のバランスが見事に取れた色調で、控えめな色使いも、また思い切って大胆な配色もできるパレット。コレクションをパーソナライズする方向へ導くカラーレンジとなっている。
 一方、MUは、自然との結びつきを感じさせるカラーが基調。光の効果で流れるような動きを感じさせる軽やかなトーンを訴求しているのが印象的。


<コットンファブリックポイント>

◇シェルターのように高密度
 
打ち込みのよい緻密な組織で非常にしっかりとした構造のファブリックが、贅沢なエレガンスとともに、重さの感覚や安心感を強みに、存在感を取り戻す。高機能性も差異化の主要ファクターで、アウトドアスポーツ用にパフォーマンス性に優れたギャバジンなどのコットン素材に目が向けられている。エラスタンに替わる綿100%メカニカルストレッチも台頭し、軽快で快適な着心地を提供している。

◇不思議なやわらかさ
 誰もが安心と心の平安を追求するシーズンとあって、クリーミーでソフトなやさしい感触の素材が歓迎されている。シャツに心地よい肌触りのエメリー起毛コットンや、また90年代に流行ったパウダースエードのような不思議な手触りのピーチスキンがパリッとしたしなやかなバージョンで蘇っている。ソフトそのものといったベルベットやベロア、モールスキン、シュニール糸でモチーフを強調したレースも。カジュアルなコーデュロイもしなやかなバージョンで人気を復活させている。さらに暖かな素材の代表、フリースはコットンを用いたサステナブルな天然素材バージョンのものが開発されて、新たな興味の対象になっている。 

◇凹凸ストラクチャー
 
凹凸のある組織がビジュアルや感触の目新しさで人気を拡大中。とくにハチの巣状の立体的模様をつくるハニカムへの関心が高まっている。スッキリとした外見でハニカム構造の大きいものから一捻りを加えたもの、ポロシャツ向けの小さいバージョンのものまで。ファンタジックなコードを採り入れたものや、カラーや糸番手、ファンシーな織りを組み合わせた個性的なツィードも。

◇ハウンドトゥース・インベージョン
 ハウンドトゥース(千鳥格子)が、強迫観念に取りつかれたかのように至るところに見られる。プリントを始め、クロスステッチ刺繍で描かれたり、キルティングで立体的に膨らんでいたり、レリーフのギピュールレースに組み込まれたり。ジャカードやツイードでは、柄が拡大され、色彩も強調されて、奔放な過剰さを表現しているものが多数登場している。

◇エクセプショナル・グランジ
 ファッションは再びグランジに回帰。素材をぞんざいに扱ってダメージを与えたかのように見せる、挑発的なアプローチが見られる。不規則な織りと糸がつくり出すラスティックな味わいや、引き裂かれてボロボロになったかのようなジャカード、ワイルドなフェイクファー、ニードルパンチのようなぼやけた外見、もちろんダメージ加工のデニムも。混沌としているように見えるルックは、実は計算に基づいて意図的に生み出されたもの。シックなブルジョワ風効果を捨て去ることで、逆に自然な居心地のよいムードが演出される。

◇クイックシルバー
 このシルバーは、鉛と水銀の中間に位置し、錬金術のような神秘的な輝きを放ち、魅惑的な雰囲気を醸し出している金属である。鎧兜を思わせるファブリックやニットには、丸みを帯びたキルトで強調されたパターンが刻まれ、スパンコールで覆われて、まるで銀の川のようである。煌めくジャカードニットで1930年代のアールデコのモチーフを思い起こさせるものや格子柄のレースも目に付く。シルバーのラミネートが光を受けて、プリントを引き立てる。

◇イルミネーション(中世の写本装飾)
 23-24年秋冬コレクションの装飾は、中世がメインストーリー。ペン画、装飾モチーフ、ステンドグラスのアウトライン、鍛鉄のスクロールがプリントや刺繍の上に展開される。紋章や中世のレタリング、生命の樹、イルミネーションなど、中世のデザインを現代的、都会的にグラフィック装飾としてアレンジすると、若者たちのロックとバロックの間をつなぐアイテム向け素材となる。

◇プリントはアートのシーズン
 様々な資料を参照して、ハイブリッドや歪曲、パロディをつくり出すアートのシーズン。大きく3つのグループが浮かび上がっている。
 1つは「装飾的な抽象化」で、花はもはや咲き誇るものではなく、滲んでいるように描かれる。カモフラージュ的な提案も多くなっている。幾何学模様も暈されたり、ジグソーパズルのようにランダム化されたり。地質学的テクスチャー、大理石の脈打つ石目、ぐらつく線、電気的アーチなど、まるで幻想的なリサイクルによって生み出されたかのようなグラフィックも。
 2つ目は「奇抜なフォークロア」で、東欧の花々やイカットがルーツの柄。とはいえ70年代のサイケデリックを思わせるスタイルなので、一見フォークロアっぽくないように見える。モチーフは大きめで、しなやかにゆったりと表現されている。
 最後に「写真アート」。色彩豊かな風景を思い浮かべ、夢のような宇宙に飛び込み、木や山を身にまとう。ポップとシュールレアリズムの中間に位置するプリントデザインで、職人による転写やアンディ・ウォーホル風のスクリーンプリントのシリーズも。カメラの故障を思わせる、ぼやけたイメージや動きのある光にも注目。


 (取材/文:一般財団法人日本綿業振興会 ファッション・ディレクター 柳原 美紗子)


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