2023年3月20日 |
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PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより |
2024年春夏向けパリとミラノの国際服地見本市がこの2月上旬、相次いで開催された。序盤のミラノウニカは、出展者が前年同期を大幅に上回る475社。来場者も47.5%増の5,304人で、海外からの来場増もあり、国際的な存在感を高めていた。
次いで本命のプルミエールヴィジョン(略してPV)パリは、44の国・地域から 1246社が出展し、日本からも49社が参加した。来場者は118か国34 548名(うち70%がフランス国外)で、2022年7月展比48%増、2022年2月展比62%増と発表されている。今期2月展は両見本市とも力強い復活をみせた会期となった。 <全般傾向> ♦ 望ましい未来へ向けて 2024年春夏は理想と現実の狭間にたゆたう季節。コロナ禍を経て、世界は今、混沌としたカオスの時代に突入している。私たちも渦巻く不安な現実と明るい希望に満ちた理想の中で揺れ動き、ユートピアを求める理想と現実が織りなす、より思慮深い解決策を導き出そうとしている。 望ましい未来へ向けて、追求されるのが理想と現実のシナジーである。ファッションテキスタイルも高い理想を掲げ、自然や素材に敬意を払いながら、クリエイティブなデザインを夢想する。抑制の効いた持続可能な生産方式と美的アプローチにより相乗効果が生み出される。その原動力となっているのが夢とイマジネーション。エコロジーへの関心をより深くクリエイティブなプロセスの中心に据えるシーズンが来ている。 ♦ 主調はコットン ファブリックはサステナブルなファッションを求める声に応え、確かな理想主義を醸成しながら、天然繊維を前面に押し出している。その主調を成しているのがコットンである。 今期PVパリのトレンドフォーラム「エコイノベーション」でも、サステナブルなコットンが活躍していた。「サーキュラリティ」コーナーでは、コットンを中心にマテリアルリサイクルやケミカルリサイクル、「染色仕上げ加工」では、コットン本来の色合いを生かしたものや水使用を大幅に削減したコットン、廃棄されたコットン生地をマイクロパウダー染料に変換し、再染色せずに使用するリサイクルなど。 こうした中、重要度を増しているのが「トレーサビリティ」である。PVパリもミラノウニカも、サステナビリティに適うトレーサビリティのプロセスのシステム構築へ向けて動き始めている。コットンも生態系に配慮した品質基準を満たす認証が必要になってくるので、要注意 ♦ ファブリック・ハイライト 今季、スポットが当てられたのがコットンをはじめとする植物繊維。太陽と私たちの間に涼しい風を送り込むフィルターともなっている。機能性 中でもクローズアップされたのが植物に特有の靭皮(じんぴ)である。コットンもソフトの追求一辺倒ではない、靭皮効果を演出したものが増えている。流動感のある素材やクラシックな素材に揺さぶりをかけ、滑らかなファブリックに魔法をかけて魅了する。単にエコロジーというだけではない、その個性的な存在感に着目したい。 こうした中、下記4つのシーズンハイライトが浮上している。 (1) 表情豊かなナチュラル テキスタイルと自然界を結びつけ、一見無造作に見える行為や、職人の手仕事、私たちの心を揺さぶる小さな不完全さの再発見。靭皮繊維やドライなタッチ、手仕事のノウハウなど。 (2) 適応性のある素材 ジェンダーレスやシーズンレスなど、あらゆるワードローブに入り込み、新しい使い方を試すことができる自由度の高い素材。体の動きに合わせて変化するナチュラルストレッチもその一つ。 (3) 高度に精緻 非常に精巧な構造で、見れば見るほどその精細さがわかる素材。エアリー、ミクロの構造、精密な透け感。 (4) デジタルな光 光と色彩が融合する夢のようなファンタジー。虹色の光のグラデーション、メタリックが放つ鋭い煌めき、マットに潜む控えめな輝きなど。 ♦ カラーハイライト 今シーズン、差別化のポテンシャルを存分に発揮するのがカラー。その魅力は、際立った光の輝きによって増幅される。 キーカラーはルミナスなアシッドカラーである。デジタルイメージとリンクするビビッドなパステルトーンで、夢のような現実を強調する。冷たい太陽の光を思わせるクールイエローや、クロロフィル(葉緑素)ジェル、ピクセル化されたスカイブルー、人工的なピンクなど、やや露出オーバーでもある色調。PVトレンドのプロジェクトマネジャー、ルーシー・ジャノー氏はとくに「クールイエロー」に注目しているという。これまでの陽だまりのような温かさに包まれたイエローではなく、すっきりとしたフレッシュなイエローである。 もう一つ、焦点として挙げられていたのが、汎用性の高いカラーレンジ。もの憂げな優しさを感じさせるグレーがかった色調で、控えめな白やアッシュピンク、ダークブルー、プラムパープル、モーヴなど。曖昧さの中に光を感じる色合いがこの季節の夢と重なる。さらにシーズン全体をカバーするナチュラルなエレガンスを備えたニュアンスのカラーも浮上。 今季は、複数のカラーが相互に作用して、より現実に即した自然なハーモニーをつくり出すシーズンである <コットン素材のポイント> ● タフな高密度 物質の本質を探究するシーズン。原材料の危機に対応し、より持続可能であるために、製品の耐久性が不可欠になっている。コットンも長持ちするようにタフな高密度素材が求められている。 素材に内在する内面への贅沢を求めるこの動きは、打ち込み密度を増加させるとともに洗練された繊細さへのニーズと結びつき、モダンなマット調、クリーンな都会感覚の仕上げ、新しい硬さや張りを強調する。 ● リファインド・ラスティック 植物の生命を称え、自然との共生を願うファブリックが台頭。進化する靭皮繊維にコットンが組み合わさって、よりしなやかに、よりリッチに、より洗練されたラスティックを生み出している。職人的ノウハウやクラフトから開発される特殊糸の追求がますます盛んになっていることも要チェック。 とくにツィードがコットン素材を主役にバリエーションを広げている。ウッディなトーンのカントリーツィードや、グリッターを散りばめた英国的な魅力にあふれたツィードが目に付く。 ● 振動する光 今やデジタルなしの生活は考えられない時代。バーチャルな光が私たちの色彩感覚を変え、明るさとパステル調の色調を高めている。 パールやイリデッセンスがフィルターのように作用し、現実と別世界の物質とのコントラストを表現するシーズン。強烈に反射する光が、高性能なウェアに躍動感を与え、シルキーコットンの古典的な花柄にモダンな表情をもたらしている。 ● 精密な軽さ 目に見えない精密なテクノロジーを目指す製品群に囲まれている私たち。ファッションもフィルターのように、軽やかに空気を纏うテキスタイルが提案されている。 とくにエアリーなコットンでは、ファンシーさとミニマリズムへのニーズの広がりから、洗練されたジャカードやレース、エンブロイダリーが浮上。細密な透かし彫りを施したようなデザインのものや、繊細で儚い透け感の表現など、近くで見てこそわかる緻密な構成のものに目が集まっている。 よりはむしろ華やかで、輝くラメ使いや、水が反射して光っているような濡れた光沢感のものも。 ● セカンドスキン 今シーズンは、肌に吸い付くようなファブリックやレザーなど、触感へのニーズが高まっている。目を惹くのが従来のインナーを超えた新しいセカンドスキン。 伸縮性のあるボイルや人間工学に基づいて作られたバイストレッチ素材は、体の動きに合わせて変化し、柔らかな感触が五感を目覚めさせる。最適な快適さと通気性を保証し、楽な着心地を実現するのはコットン。ジャンプスーツやボディスーツのボディシェイプを再構築し、ランジェリーコレクションにインスピレーションを与える。 ● ぼかしたフィルター フィルター越しにぼやけたような側面や不規則な表情を持つコットンが新たな興味の対象となっている。それは現状の迷いや不確実性を反映しているかのようにも思われる。ロマンチックなメランコリーを抱かせる曇りの日の風景にみる美学、かすれていたり、途切れていたり、歪んでいたり。また繊維のブレンドによるシネ調への関心も。 プリントではグラデーションが拡大。スプレーで吹き付けて幾重にも重なり合う天空の光輪を映し出したかのような表現のものなど、シルエットに夢を吹き込むデザインに目が向けられている。 ● 表現力豊かなデニム デニムは今季、豊かな表現力を備えたものが多くなっている。革新的なテクニックを駆使したウォッシュ加工や仕上げ、織りなど、視覚的インパクトの強いものが目立つ。ヘルシー見えするダメージドも人気。 超ビジュアル的なオーバーダイと磨耗効果を重ねて、ほとんどディストピア的なアプローチでファンタジーを表現したり、赤土をまぶしたような表面に加工したり、部分的にスプレー加工を施すことで、元の色を薄め、より着古したような質感に仕上げたり、と様々。 ● プリント&パターン 伝統的な絵画技法とハイテクなデジタル化が進行する中、自然と植物への回帰を告げるシーズン。花のような自然の造形的要素は、幻覚的なデジタルビジョンを見ているかのように表現される。無限に小さいものと無限に大きいものが融合し、衣服デザインに新たな次元が導入される。 またアンリ・マティスやポール・ゴーギャンなど、モダンアートの巨匠たちの作品に着想した、夢のようなプリントも登場。絵画を切り取ったような巨大な柄や、輪郭を精密に描いたクリアでクリーンなデザイン、ジャングルを思わせる植物モチーフなども。 |
(取材/文:一般財団法人日本綿業振興会ファッション・ディレクター 柳原 美紗子) |