竹内郁夫 日本紡績協会会長よりご挨拶
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今年も米国の綿花業界を代表する国際綿花評議会(CCI)のご協力をいただきコットンの日のイベントを開催することができました。CCI及びコットインコーポレーテッドの両団体には私どもの活動へのご支援に感謝を申し上げるとともに、長年に渡る日米綿製品業界の緊密な関係が今後とも発展していくことを深く祈念いたします。
最近では日本の繊維業界におきましても環境に配慮した原綿の採用、環境負荷を減らす加工プロセスなどの商品設計、綿製品のアップサイクルなど、サステナビリティの実現に向けた取り組みが進められています。日本紡績協会の関連団体である日本綿業振興会ではこのような情報を機関誌やホームページを使って発信して参ります。
また、日本紡績協会では国産綿製品の良さをアピールするためにジャパンコットンマークを制定し、国産綿素材を使用したアパレルなどの最終製品にこのマークをつけることを進めています。今後もメディアを活用するなど積極的に消費者へのアピールを行ってまいりますので、引き続き日本の綿製品に対してご支援ご協力賜りますようお願い申し上げます。
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「2040年アパレルの未来~業界が持続可能になるためにすべきこと~」
A.T.カーニー株式会社
シニア パートナー 福田 稔氏
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アパレル市場の3つの変化
現在、アパレル市場では「大量生産・大量消費の時代の終焉」「中古品市場の拡大」「ウェルネス関連市場の成長」という3つの大きな変化が起こっています。その背景には2つの大きなマクロ環境の変化があり、1つはウクライナ戦争を背景とするインフレの加速、もう1つはコロナ禍による消費者の価値観の変化と二極化の進展です。
第1の変化「大量生産・大量消費の時代の終焉」は新品市場規模の推移を見ても明らかで、コロナ禍で減少した市場規模は未だ回復しておらず、今後も成長率は横ばいと予測されています。価格別にみると、マスアパレルは横ばいなのに対し、ラグジュアリーアパレルは成長傾向にあり、二極化の影響が表れています。
第2の変化は「中古品市場の拡大」です。グローバルのアパレルリユース市場の市場規模は2023年の時点で約30兆円を超えており、2027年には50兆円を超えるほどの成長が予測されています。2027年の新品市場は約250兆円と予測されているため、世界の新品と中古衣料品を合わせた市場の
約1/6がリユース品になる計算です。日本でもフリマアプリの普及やラグジュアリー商品のリユース市場の拡大を背景に、中古品市場が年率10%以上成長しています。
第3の変化は「ウェルネス関連市場の成長」です。アパレル市場全体では成長が横ばいですが、コロナ禍を経て健康やウェルネスへの関心が高まり、スポーツやアウトドア関連の市場は大きく伸びています。中国ではスポーツアパレル市場の4.5%の成長が予測され、日本でも同様に成長が期待されています。
アパレル業界のサステナビリティの現状
このアパレル市場の変化には、サステナビリティも大きく影響していると考えられます。2019年に発表された国連のレポートで繊維アパレル業界は環境への負荷が大きい産業であると指摘され、特に全体の約8%を占めるCO2排出量は大きな課題として、早急な対応が求められました。
しかし、繊維アパレル業界のCO2排出は90%以上が原材料調達から縫製までの製造工程(スコープ3)で発生しており、CO2排出量を削減するためには、物づくり自体を改善する必要があります。そのためには原料調達や製造工程を見直す以外にも、これまでの「新品を多く作って、多く売る」という考え方を改めることが必要となり、その結果、アパレル市場の「大量生産・大量消費の時代の終焉」や「中古品市場の拡大」へとつながっています。
さらに、この状況は企業レベルで見ても同じで、スコープ3の中でも、ものづくりに起因する「購入した製品サービス」と、それを海外から輸入する「輸送・配送(上流)」が大手アパレル各社の温室効果ガス排出原因の大半を占めています。そのため、サプライチェーンの改善など包括的なアプローチが求められています。
サステナビリティ先進国・EUの取り組み
欧州のサステナビリティへの取り組みは、黎明期(~2011年)、浸透期(2012年~2019年)、拡大期(2019年以降)の3つのステージに分けられます。黎明期には、環境意識の高い企業がサステナビリティを推進し、浸透期にはアパレル業界全体に意識が広がりました。拡大期では、規制強化により取り組みが加速しました。2022年3月には「EUテキスタイル戦略」が発表され、2023年にはこの戦略をより具体化するために、「2030年の繊維製品の循環型に向けたTransition
pathway」が発表され、約50の具体的なサステナビリティ・アクションを定義し、実施の責任者と期限を明確にしました。その1つである「デジタルプロダクトパスポート」は、製品ごとの環境負荷情報を提供するシステムで、2025年には大企業に対して適用されることが決定していますが、欧州ではすでに多くの企業が自主的に環境負荷情報を開示しています。例えば、大手食品スーパーは「エコスコア」を開示し、消費者は環境負荷を確認してから購入するという習慣が広がっています。これに倣い、日本でも同様の取り組みが始まっています。
他にもフランスでは、企業が余った衣服を廃棄することを禁止する法案が2022年から施行され、さらに消費者がリペアをする際に補助金が出る仕組みも始まっています。また、EU全体で「EUグリーン・クレイム指令案」が進行中で、根拠のないエコ宣言を禁止しています。
このように欧州では、脱炭素に向けた様々な取り組みが進んでおり、この動きはアメリカを始め、世界中へと広がっています。日本でも環境省を中心に同様の枠組みを検討しており、今後、繊維製品の資源循環システムの法案や「環境配慮設計ガイドライン」が策定される予定で、日本企業もこの流れに沿って準備を進める必要があります。
持続可能な成長を目指す資本主義への転換
資本主義と消費社会の将来を考える際、地球の環境容量を考慮した持続可能なモデルへの移行が重要です。経済学者のケイト・ラワースは、気候変動や生物多様性の損失がエコロジカルシーリング(地球の資源量や環境容量)を超えていると警鐘を鳴らしています。資源消費量を示す「マテリアル・フットプリント」でも、現時点で地球の環境容量の2倍以上の資源が消費されていると報告されており、このフットプリントの伸びとGDPの成長率には高い相関があるため、『脱成長』が持続可能な社会へのキーワードとして注目されています。
こういった中、繊維アパレル業界ではバージン素材の消費を抑えた循環型モデルの導入が求められています。しかし、繊維製品の多くは3種類以上の混紡素材で作られているため、技術的にもコスト的にもリサイクルが難しいのが現状です。そのため今後は、単一素材での製品づくりや、リサイクルしやすい素材の使用、リサイクルを促進する仕組みづくりなど、業態にあった循環型モデルを導入していく必要があります。とある海外のスニーカーブランドでは、全パーツをオーガニック素材で作成したランニングシューズのサブスクサービスを実施し、使用済みスニーカーを確実に回収できる仕組みを取り入れ、素材の100%リサイクルを実現しています。
他の取り組みとして、「環境再生型(リジェネラティブ)農業」も注目されています。これは、今までの経済活動によって破壊されてしまった自然を、経済活動を通じて再生し、元の環境に戻そうとする農業で、サステナブルを一歩進めた考え方です。繊維アパレル業界でも、環境再生型コットンの認証を通じて、リジェネラティブな綿花栽培を推進しています。
今、時代は「株主資本主義」から「公益資本主義」への端境期にいます。消費者もサステナブルな商品を選ぶ意識が高まりつつあり、サステナブルな社会の実現は、すべての人、社会、そして地球に関わる共通の課題です。今後は繊維アパレル企業に限らず、生活者のライフスタイルに関わる企業は「大量生産モデルからの脱却」、「循環型・再生型のビジネスモデルへのシフト」、「カーボンニュートラルに向けた継続的な取組」、「5Rへの積極的な取組」、「ESG(環境・社会・ガバナンス)対応」、「KGI/KPI改革(経済成長だけでなく、幸福度やサステナビリティに関する経営目標を導入)」の6つの観点を経営の中で重視していく必要があり、これこそが業界が持続可能になるためにすべきことであると思っています。
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「U.S.COTTON:サステナビリティとトレーサビリティ」
国際綿花評議会 アジア地区担当上席理事 ラズヴァン・ワンチャ氏が講演
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アメリカ綿花産業の現状
アメリカ綿花産業は、1985年から水使用、土地利用効率、土壌侵食、温室効果ガス排出、エネルギー使用のデータを収集し始め、サステナビリティ指標の改善を図ってきました。2015年からは土壌中の炭素増加も目標に加え、環境改善を続けています。
「U.S.コットントラストプロトコル」は、この情報をサプライチェーン全体に共有し、より持続可能な綿花生産を実現するために2020年から運用が開始されました。このシステムは、プロトコル・プラットフォームとテキスタイルジェネシスの2つのプラットフォームで構成され、生産者からデータを収集後、集計、検証を行い、数値化したものを透明性の高いデータとして提供しています。さらに、テキスタイル・エクスチェンジへの参加、サステナブル・アパレル連合(SAC)への加盟など、多くの機関や組織と協力し、持続可能なエコシステムを支えています。
現在、プログラムに登録されている農場は170万エーカーに達し、前年から約25%増加しました。サプライチェーン全体では2,100以上のメンバーが登録されており、こちらも増加傾向にあります。この増加は、サステナブルなプログラムへの参加の重要性を多くの企業が認識し始めた証拠です。また、主要なアパレル企業43ブランドが参加し、そのうち約25社はすでにパイロットプロジェクトを開始し、システムを活用することで事業を拡大しています。今後は、プロジェクト開始までのプロセスを迅速化し、参加メンバーを増やすことで、綿花産業をより持続可能で透明性の高いものにすることを目指しています。
サステナビリティの現状を数値で見える化し、継続的な改善を後押し
サステナブルな綿花生産は生産者から始まります。生産者がプログラムに参加するためには、土壌の健康、栄養管理、水管理、生物多様性、労働者の福祉、収穫準備、作物保護、繊維の品質に関する100以上の質問を含む監査を受ける必要があります。これらの質問の回答はシステムに入力され、AIが情報を抽出し、第三者によって検証されます。さらに生産者が環境負荷データをシステムに入力することで、水使用、土地利用効率、土壌侵食、温室効果ガス排出、エネルギー使用、土壌炭素の6つの環境指標に変換され、サプライチェーン全体で環境データを利用できるようになります。
私たちは2025年までの目標を設定し、過去3年間その進展を追跡してきました。2015年のベースラインと比較して、水使用効率は14%向上し、エネルギー使用量は27%減少、温室効果ガス排出量は2.4 lb.CO2e/lbから1.0 lb.CO2e/lbに減少し、2025年までの目標に向けて大きく前進しています。土壌保全も79%改善し、土壌炭素指数もプラスになっており、土壌が良好に維持されていることを示しています。これらのデータを元に、同業者や地域、全国平均と比較して改善点を見つけ、継続的な改善に役立てています。
透明性の高いトレーサビリティシステムは企業活動に必須
トレーサビリティも重要な要素です。2030年までに温室効果ガス排出量55%削減を目指すEUのグリーンディールやウイグル強制労働防止法の施行など、多様な規制が誕生し、クリーンなサプライチェーンが求められています。そこで「U.S.コットントラストプロトコル」では、サプライチェーン全体の商品と在庫をデジタル的に管理・追跡しています。このシステムにはブロックチェーン技術が採用されており、原材料から二次製品までのすべての情報を一貫して管理し、変更があれば新しい取引として記録されるため、改ざんや在庫の途中追加などの不正が不可能となり、透明性と信頼性が確保されます。
このトレーサビリティシステムは、多くの企業に支持され、現在487の製造業者が活用し、4500万枚の二次製品と700万キログラムの綿が追跡されています。さらに、25のブランドと小売業者が積極的に追跡を実施しています。 国際綿花評議会(CCI)は、紡績企業やサプライチェーンに対して、生産を最適化する技術的ソリューションを提供しています。今後も、アメリカコットンをご利用いただき、「U.S.コットントラストプロトコル」への参加とCCIの活用をお願いしたいと考えています。
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藤田ニコルさんに「COTTON AWARD 2024」を授与 |
コットンの持つ「優しさ、さわやかさ、ナチュラルさ」のイメージにふさわしい著名人を選出し、5月10日「コットンの日」を記念して「COTTON
AWARD 2024」の授与式を行いました。
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「COTTON AWARD 2024」は、藤田ニコルさんが受賞。ナチュラルなキャラクターに加え、様々なシーンで多彩な才能を発揮して活躍する姿がコットンのイメージにふさわしいという理由で選出されました。
竹内郁夫日本紡績協会会長よりオーナメントを授与された藤田さんは、「お洋服に関わるお仕事をしているので、コットンアワードに選ばれて光栄な気持ちです。私が手掛けているブランドでは、ストレスフリーなお洋服づくりも心がけているので、コットンは欠かせない素材だと感じています。お洋服だけではなく、コスメ関連の商品など、毎日の生活のどこかにコットン素材があると感じているので、コットンはとても身近な存在です。自分に優しくなれる素材だと思うので、これからもたくさん取り入れたいと思います。」と受賞の喜びとコットンへの想いを語りました。
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